毎年この季節になると、無性に聴きたくなる曲の一つに、ブラームスの弦楽六重奏曲の第1番があります。
若い日々の様々な出会いや別れを思い出し、甘酸っぱい感傷に包まれる、そんな理由でついトレイに乗せてしまいます。
この曲は1860年、ブラームス27歳の時に書かれた曲。
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ各2本によるアンサンブルです。
この曲の第二楽章は、1958年に製作されたフランス映画『恋人たち』のテーマ曲として引用されたそうで、
私より一世代年輩の方には懐かしい曲なのかもしれません。
私が愛聴するディスクは、レ・ミュジシャンによるもの。
各奏者がお互いの音を聴きあいながら、密やかに会話を楽しんでいるような、そんな趣が感じられる演奏です。
第1楽章冒頭のチェロが柔らかな音色で奏する優しく穏やかな第一主題を耳にした途端に、春の日の黄昏時に、湿り気のある温かい大気に包まれるような、
そんな密やかな喜びがあふれてくる、幸福感に満ちた演奏です。
第2楽章は、前述したように、映画のテーマ曲としても知られる有名な変奏曲。
過ぎ去った熱い想い出を噛みしめるように、
時に慙愧に堪えない後悔が押し寄せるような、
そんな演奏が展開されます。
第3楽章は、心が弾むような楽しげな音楽。
トリオ部では、喜びが感極まって、思わず駆け出したくなるような幸福感に溢れています。
第4楽章は、心穏やかに過ぎ去りし幸せな日々を回顧するような…。
この曲をエントリーするに当たり、ネットで背景を調べると…。
1857年、ブラームスは故郷ハンブルグを離れてデトモルトの宮廷勤務に就き、
そこでアガーテ・フォン・シーボルトと出会い、婚約するに至りましたが、
結局は破棄されて、失意のうちに帰郷。
その直後から作曲に着手され、翌年に完成された作品です。
そんな背景を考えながら聴くと、ブラームスの人となりが偲ばれて、また違った味わいが感じられるかも知れませんね。