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イーゴリー・ストラヴィンスキー:組曲『兵士の物語』

ピエール・ブーレーズ指揮  クリーヴランド管弦楽団員


1913年に、音楽史上稀にみる大センセーションを巻き起こした『春の祭典』の初演から5年後、

第一次大戦の直後の疲弊した状況下で、大規模な作品の上演をあきらめざるを得なくなったストラヴィンスキーは、自らの生活を守ることを余儀なくされ、

ロシア民話集から、「純真な兵士が悪魔に騙されて欲を出したために全てを失う」という物語をテキストにした、

ヴァイオリン、コントラバス、ファゴット、クラリネット、バスーン、トロンボーンと打楽器の七人の楽器奏者と、

兵士、悪魔、語り手の三人の役者の為の音楽を作曲しました。

どこの街角やカフェでも耳にできるメロディーを題材として作られたと言われるこの曲は、

作曲の動機こそ通俗的でしたが、作品としては極めて高い芸術的評価を得たものです。


この曲の全曲盤には、詩人ジャン・コクトーが語り手を務めるマルケヴィッチ指揮する演奏が、昔から名盤として知られていますが、

今日エントリーする、ピエール・ブーレーズ指揮するクリーヴランド管弦楽団のメンバーによる組曲版は、7人の楽器奏者のみの演奏。

コミカルかつシニカルで雄弁な音楽は、ストーリーを理解しなくとも、聴いているだけで十二分に楽しめる作品だと思うのです。


第1曲「兵士の行進」は、休暇をとって婚約者の待つ故郷へ歩いて戻る兵士の、意気揚々とした姿がコミカルに…

第2曲「小川のほとりのアリア」の、コントラバスのピッチカートやヴァイオリンの奏でるせかせかとしたユーモラスな雰囲気…

第3曲「パストラール」に聴ける、のどかさや望郷の念…

第4曲「王の行進」での、マーチングバンドのような能天気な陽気さ…

第6曲の「三つのダンス(タンゴ、ワルツ、ラグタイム)」での、官能的なタンゴ、ワルツを経由してラグタイムに至る素晴らしい盛り上がり!

第8曲「大きなコラール」のちょっと厳めしい音楽は、

全曲盤では“…全てを持つことはできない。禁じられている。選ぶことを学べ。一つ幸せがあれば、全てが幸せだ!…”と、教訓めいて語られるバックに流れる曲!

そして終曲では、打楽器が激しく「悪魔の勝利の行進曲」打ち続けながら遠ざかっていき、曲は終了します。


上手く表現することはできませんが、聴くほどに味わいが深まる曲であり、演奏であると思います!

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