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ベートーヴェン:ピアノソナタ第12番『葬送』

ピアノ:アルフレッド・ブレンデル(1993年)


ベートーヴェン(1770-1827)30歳の頃に書かれたピアノ・ソナタ。

ところがピアノソナタとはいっても、ソナタ形式の楽章を一つも含まず、

第1楽章に変奏曲、第2楽章にスケルツォ、第3楽章に葬送行進曲、第4楽章にロンドが配置され、

楽章間の繋がりが緩やかな組曲的な内容で構成されているために、

「ベートーヴェンがハイドンやモーツァルトの古典的な形式から抜け出し、独自性を獲得するに至るまでの過程における最初の作品」と位置付けられています。


私にはそういった専門的な知識がないために、演奏によっては楽章間に脈絡がない退屈な音楽とも思ってしまうのですが、

ブレンデルの演奏を聴くと、全4楽章が一貫した流れの中にある、幻想曲風の素晴らしい曲と感じられるのです。

その印象を強く抱いた理由は、第1、3楽章各々の終結部…。

敢えて言葉で表現すれば、「こんなこともありました」と述懐するようにして、第2、4楽章へと音楽が流れていく工夫がされているように思えるのです…。


第1楽章を彼の演奏で聴くと、冒頭に提示された愛らしい主題の印象を留めたままで、

おつに澄ましたり、おどけたり、憂い顔になったり、無邪気になったり、エレガントさを装ったりと、

表情を変えながら幸福感に溢れた音楽が展開されるのです…。

その余韻を残したままに開始される第2楽章は、そんな懐かしい想い出を振り返るような音楽…。

第3楽章は、作曲家自身によって「ある英雄の死を弔う葬送行進曲」と記されているそうですが、

ブレンデルの演奏を聴くと、過去に亡くなった人を思い出すような趣で、

そのために多くの演奏で聴き取れる、張り裂けるような悲痛さは感じられません。

やはりその余韻を残したままに続けて演奏される終楽章は、今は亡き人の懐かしい想い出に彩られた音楽と感じられるのです。


ちなみに、妻が所有している楽譜を見ると、第1、3楽章の最後の音にフェルマータが付けられていますが、

この記号によって、余韻を漂わせて楽章間の繋がりを持たせるように工夫されているのでしょうね、多分!

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