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グスタフ・マーラー:歌曲集『少年の魔法の角笛』

ルチア・ポップ(ソプラノ)、アンドレアス・シュミット(バリトン)
レナード・バーンスタイン指揮  ロイヤル・コンセルトヘボウ管


19世紀の初頭、「民謡こそは民族の根本から萌芽した自然の詩であり、情緒や感性の源泉である」との考えのもとに、ドイツ浪漫派の詩人たちによって精力的に民謡の蒐集活動が行われました。

民衆の間で口承されたわらべうた、遊び歌、子守唄、物語詩、恋愛詩を集めて出版された詩集『子供の魔法の角笛』に深く共感したマーラーは、それらの詩を基にして幾つかの歌曲を作りましたが、

中でも1888年に発表されたオーケストラ伴奏による歌曲集は、詩集と同じ『子供の魔法の角笛』と命名されました。

曲集の内容については、こちらを参照させて頂いております。


マーラーの直弟子でもあった20世紀の大指揮者ブルーノ・ワルターは、マーラーが『…角笛』に共感した理由について、「おそらく彼自身の精神的故郷との出会いを、あるがままに詩の中に感じ取れたのだろう」と述べています。

事実、その後に作曲された声楽付きの交響曲第2〜4番には、『…角笛』から採られた歌詞が引用されていますし、

5番以降の交響曲にも、直接の引用こそありませんが、若き日のマーラーの周囲で起こった様々な出来事、

換言すればワルターの言う「精神的故郷」に繋がると思しき楽曲が、様々な形で随所に登場します。

そういった意味において、その後のマーラーの創作の骨格を形成する上での、重要な作品集と考えられるのでしょう。


これまで何種類かの演奏を聴いた中では、このバーンスタイン盤に最も惹かれました。

覚束ないドイツ語の知識しかありませんので、詩の内容を的確に把握することは叶いませんが、

詩に込められた様々な感情がストレートに表出されていると感じるられ点で、この曲に最もぴったりくる演奏だと思うのです。


このディスクでの第1曲目、歩哨の積み重なった愚痴と、そんな鬱憤を晴らすために夢想する女性とのやり取りを会話仕立てにした「歩哨の夜の歌」の滑稽さ!

あくまでも頑なに自己を主張する男を幽閉された囚人に見立て、頑なさ故にいつまでも願いが叶わない女との擦れ違いの会話を描いた「塔の中の囚人の歌」のパロディー的な悲(喜)劇!

愛する人を残して戦死したラッパ手の亡霊の、一途な気持ちを歌った「トランペットが美しく鳴る所」。

その他にも、憧れ、恋、別れ、自然、メルヒェン、信仰、悪戯、若者の陽気さ等、マーラーの幼児期からの体験が、感興豊かに語られています!


マーラーの交響曲は、これらの体験が随所に盛り込まれた、多様性に溢れた音楽です。

その原点ともいえる彼の歌曲に内包された素朴な感動が、おそらくバーンスターンの主導によって表現し得たと感じられるこのディスクは、

それほどに彼の個性が溢れつつも、曲それぞれが多様な感動に満ちた、素晴らしい演奏だと思います!

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