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ロベルト・シューマン:交響曲第1番『春』

クリストフ・ドフォナーニ指揮  クリーヴランド管弦楽団


1838年、シューマンがウィーンに滞在時にシューベルトの兄のもとを訪ねた折に、遺稿の中から交響曲第9番を発見、

その初演に尽力したことがきっかけとなって、自身も交響曲の作曲に情熱を燃やしたといわれています。

創作への集中力が並はずれて高いシューマンは、1841年1月末に僅か4日間で交響曲第1番のスケッチを描き上げ、

2月中にはオーケストレーションを完成させたと言われています。

前年には、クララとの10年来の恋を実らせ結婚したシューマンの、充実した心境が反映された、幸福感に満ちた作品。

当初は、各楽章ごとにシューマン自身によって「春の始まり」「黄昏」「楽しい遊び」「たけなわの春」という表題が付けられたそうです。

この交響曲を『春』と名付けたのも、勿論シューマン自身でした!


この曲は、学生時代からLPを聴いている間は、ジョージ・セル/クリーブランド管の演奏をもっぱら愛聴していました。

とりわけ印象的だったのが、第1楽章序奏部。春の兆しを感じさせるインスピレーションに溢れたもので、

期待を膨らませるかのように徐々にテンポを上げつつ、一気に主題部へ流れ込んでいくこの演奏は、聴く度に爽快な充実感に満たされたものでした。

もう一点印象的だったのは、春爛漫の喜びに溢れた第4楽章。

第1主題が回帰する時の、はにかむような躊躇いを感じさせる細やかな表情付けや、

木管で奏される第2主題のおどけたニュアンスの絶妙さ!

40年前には、“セルの演奏は冷たい”という評が大半を占める中、肩身の狭い思いをしながら、この演奏を愛聴したものでした。

ところが、昨日もCD化されたこの演奏を改めて聴いたのですが、安物の再生装置でLPを楽しんでいた頃のこれら絶妙のニュアンスは、やはり聴き取れませんでした…。


そのため最近は、クリストフ・ドフォナー二が、同じクリーヴランド管を指揮した演奏を好んで聴いています。

第1楽章序奏部のインスピレーションにこそやや不満は残りますが、

第1主題が提示されてから以降は、幸福感に満ち溢れた音楽が、集中を途切れさせずに聴き通せる演奏です。

ゆったりとした流れに身を任せるように、シューマンのロマンに浸れる第2楽章…。

凛とした清々しい青春が感じられる第3楽章…。

そして第4楽章は、春爛漫の世界に浸りながら、自然の声に聴覚を傾ける、そんな静かな趣が感じられる演奏。

全曲を通して、木管の音色の美しさが印象的で、セルとはまた異なったシューマンの世界を楽しませてくれる、名演だと思います。

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