その初演に尽力したことがきっかけとなって、自身も交響曲の作曲に情熱を燃やしたといわれています。
創作への集中力が並はずれて高いシューマンは、1841年1月末に僅か4日間で交響曲第1番のスケッチを描き上げ、
2月中にはオーケストレーションを完成させたと言われています。
前年には、クララとの10年来の恋を実らせ結婚したシューマンの、充実した心境が反映された、幸福感に満ちた作品。
当初は、各楽章ごとにシューマン自身によって「春の始まり」「黄昏」「楽しい遊び」「たけなわの春」という表題が付けられたそうです。
この交響曲を『春』と名付けたのも、勿論シューマン自身でした!
この曲は、学生時代からLPを聴いている間は、ジョージ・セル/クリーブランド管の演奏をもっぱら愛聴していました。
とりわけ印象的だったのが、第1楽章序奏部。春の兆しを感じさせるインスピレーションに溢れたもので、
期待を膨らませるかのように徐々にテンポを上げつつ、一気に主題部へ流れ込んでいくこの演奏は、聴く度に爽快な充実感に満たされたものでした。
もう一点印象的だったのは、春爛漫の喜びに溢れた第4楽章。
第1主題が回帰する時の、はにかむような躊躇いを感じさせる細やかな表情付けや、
木管で奏される第2主題のおどけたニュアンスの絶妙さ!
40年前には、“セルの演奏は冷たい”という評が大半を占める中、肩身の狭い思いをしながら、この演奏を愛聴したものでした。
ところが、昨日もCD化されたこの演奏を改めて聴いたのですが、安物の再生装置でLPを楽しんでいた頃のこれら絶妙のニュアンスは、やはり聴き取れませんでした…。
そのため最近は、クリストフ・ドフォナー二が、同じクリーヴランド管を指揮した演奏を好んで聴いています。
第1楽章序奏部のインスピレーションにこそやや不満は残りますが、
第1主題が提示されてから以降は、幸福感に満ち溢れた音楽が、集中を途切れさせずに聴き通せる演奏です。
ゆったりとした流れに身を任せるように、シューマンのロマンに浸れる第2楽章…。
凛とした清々しい青春が感じられる第3楽章…。
そして第4楽章は、春爛漫の世界に浸りながら、自然の声に聴覚を傾ける、そんな静かな趣が感じられる演奏。
全曲を通して、木管の音色の美しさが印象的で、セルとはまた異なったシューマンの世界を楽しませてくれる、名演だと思います。