晩年、病魔(白血病)と闘いながら命を削る思いでレコーディングに取り組んだと言われる、伝説的な名演であります。
自然な音の流れと、透明な音色の中に聴ける悲しいほどの美しさ!昔から好んで聴いてきた演奏です…。
ですが、今日エントリーするのは、ゲザ・アンダ(1921-1976:ハンガリー)のもので、遺作とされている第14番は収録されていません。
この演奏も、全曲を通して何度も聴きましたが、
その度にまるで若い日のアルバムを見ながら想い出を辿るように、一曲一曲から懐かしさが滲み出るような、そんな感慨を抱きました。
冒頭に収録されている余りにも有名な、様々な演奏で飽きる聴いてきた第1番“華麗なる大円舞曲”からして、
華やかさとは一線を画した抑制の効いたもので、
音色がとびっきり美しく、
とびっきり滑らかで、
妙な表現ですがワルツのリズムが格別に綺麗!
そんな演奏に瞬く間に惹き込まれてしまいました。
飛びぬけて爽やかな詩情の豊かさが実感できるのが第8番(op.64-3)…
穏やかに移ろいゆく感情の機微が、自然な呼吸と微妙なタッチの変化の中に表出された、流れるように美しい演奏です。
これらが、アンダの演奏の持つ特徴なのでしょうか。
アンダといえば、フリッチャイと共演したバルトークのピアノ協奏曲での鮮烈な印象ばかりが強かったのですが、
彼の弾くモーツァルトを高く評価される方もいらっしゃいますが、このショパンを聴くと、それも納得できるように思えます。
この演奏が収録されたのは1975年の12月、それから半年後の翌年の6月に、アンダは癌のために55歳の生涯を閉じました。
この全集を聴くと、自らの死を予期したピアニストが、様々な思いを一つ一つのワルツに込めて演奏したのではないか、
そう思えるほどに一曲一曲に込められた思い入れが伝わってきます。
ショパン好きな方には、ぜひ一聴されることをお薦めしたい演奏です!