そこでラックから取り出したのが、メンデルスゾーンの無言歌集と、ヴァイオリンソナタとチェロソナタという3枚のCD。
いずれも美しい曲なのですが、
同じ室内楽でも、ピアノ三重奏曲や弦楽四重奏曲らと比べると、表現の多様性や感情表出の面でどことなく物足りなさを感じていましたので、
普段は気に留めることはないのですが、時々無性に聴きたくなることがあります。
尤も、ディスク3枚全部を通して聴くと退屈しますので、その中から抜粋して聴いたうちの一曲が、チェロソナタ第1番…。
第1楽章のエレガントな旋律を滔々と歌うチェロの響きは、聴き手を惹きつけて退屈させることのないお喋りな貴婦人の会話のよう…。
随所で絶妙の合いの手をいれたり、時に会話の主役になり変わったりするピアノの旋律も、気が利いた美しいもの。
第2楽章は、物思いに耽りながらふと漏らす、呟きやため息のような、甘く切ない音楽です。
第3楽章は、甘酸っぱい青春の想い出を胸に秘めて、意気揚々とした旅立ちを思わせる、そんな魅力に溢れた音楽です。
チェロのリン・ハーレルは、若干18歳でジョージ・セル率いるクリーブランド管弦楽団に入り、21歳で首席奏者に抜擢された人材。
セルが亡くなった翌年の1971年に退団後は、ソリストとして活躍しています。
ただ、私がこれまでに聴いた範囲では、華やかな独奏チェリストとしてよりも、室内楽のメンバーとしての演奏の方に、より魅力を感じています。
この曲も、華々しいチェロの技巧を披歴する曲ではなく、ピアノと静かに語り合うような趣の曲!
カニーノのピアノとの呼吸がぴったり合った、メンデルスゾーンの好ましい演奏だと思いました。