出版社側が、彼が死の年に作曲した14曲のリートを一つにまとめた上で、このように命名して出版したもの。
したがって他の2曲のような、曲集としてのストーリーはありません。
全14曲のスタンダードな内訳は、第1〜7曲がレルシュタープの詩、第8〜13曲がハイネ、そして第14曲がザイドル…。
しかしシューベルトが大好きな私にとっては、死と対峙した最晩年に書かれた歌曲という共通点を理由に、一つの曲集としてまとめられたことによって、
やはり最晩年の名作である弦楽五重奏曲やピアノソナタ第19〜21番を聴くのと同じように、
歌手や伴奏者が、曲に統一感を与えるべく工夫を凝らした演奏を聴けることに、喜びを感じます!
中でも、今年発売されたボストリッジ/パッパーノ盤は、大変に印象的な『白鳥の歌』でした。
ボストリッジの滑らかな歌い口がいかんなく発揮された前半部のレルシュターブの作品では、厳しさの中にも彼岸への憧れかとも思える、儚くも抒情的で美しい世界を感じさせてくれます。
後半のハイネの作品では、“アトラス”の激しいドラマ性の中から、力強さと同時に苦痛にゆがむ表情が、
“都会”“海辺で”“影法師”での、地獄の深淵を覗き見るようなくような殺伐とした心象風景が、
そして、ザイドルの詩による終曲“鳩の使い”では、全てから解き放たれたように軽やかに舞う、シューベルトの魂が!
プロの演奏の方なら、コンサートのプログラム構成に当たっては、それぞれにストーリー性(或いは関連性)を考慮されるのでしょうが、
ボストリッジの場合はその意図が音楽に明晰に示され、聴き手のインスピレーションを刺激してくれるように感じます。『白鳥の歌』も然り!
歌に合わせて刻々と表情が変化するパッパーノの当意即妙な伴奏も、この演奏を際立たせる素晴らしいものだと思いました。