そのために、『リンツ』という愛称で呼ばれるようになりました。
私がこの曲を始めて素晴らしいと感じたのは、コリン・デーヴィス/SKDの演奏で、第1楽章の冒頭部を聴いた時!
アダージョで転調しながら進むこの部分は、雲間からこぼれる陽射しが刻々と変化することによって明暗が移ろうように、
一音ごとに音の微妙な表情の変化が表現された奇跡のような演奏に、これまで聴いたこともない強い印象を受けたからでした!
SKD特有の、羽毛のような軽い質感を持つ弦の音色が寄与していることは勿論でしょうが、
何よりもデーヴィスのデリカシーに富んだ指示がオケに対して徹底されているからこそ、このような絶妙なニュアンスの表現が実現したのだと思います…。
第1楽章主部は、対照的に力強い壮麗な音楽ですが、やはり各楽器の表情が微妙に変化しながら進行する、内容の充実した音楽です。
第2楽章は、平和で穏やかな舞曲風の音楽ですが、この楽章でもやはり刻々と移ろいゆく表情が美しく、聴くほどに深い味わいを持った、円熟した作品と感じます。
第3楽章では、トリオ部のオーボエとファゴットが歌い交わす旋律の素朴な美しさが、とりわけ印象に残ります!
終楽章は、明るく軽やかな音楽で開始されますが、転調を繰り返しながらカノン風に進行する力強い展開は、『ジュピター』の終楽章にも比肩できるような充実した音楽。
この曲は、作曲を依頼されてから僅か4日間で完成されたと言われていますが、
デーヴィスの演奏を聴くと、当時27歳のモーツァルトの成熟ぶりが実感できる、深い内容を伴なった傑作だと思います。