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ヨハネス・ブラームス:ドイツ・レクイエム 

バーバラ・ボニー(ソプラノ)  アンドレアス・シュミット(バリトン)
C.M.ジュリーニ指揮  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団


ブラームスは、自分を楽壇に紹介し、その後も温かく支援してくれた恩人のシューマンの死(1855年)をきっかけにレクイエムを構想しますが、遅々として筆は進まず、

それから8年後の母親の死が契機となって一気に加速し、1868年にようやく完成。

これによって、35歳にしてドイツ楽壇における確固たる地位を獲得しました。


レクイエムは、通常はラテン語の祈祷文に従って作曲され、キリスト教会における死者の霊を慰めるための典礼音楽として演奏するためのものです。

しかしながらこの作品は、教会の儀式のために書かれたものではなく、

ブラームス自身がルター教会の聖書から抜粋したものをテキストとして、

悲嘆や苦悩の境遇にある者に希望や喜び、慰めを与えることによって、救済へと導くような内容に構成された、

彼の信仰心や死生観が色濃く反映されたものです。

ですから、この曲は死者の魂を慰めるだけのものではなく、

むしろ残された生者の悲しみを癒すために書かれたレクイエムとも言われています。


そんな音楽であることが実感できるのは…

第1曲冒頭部は、歌詞とは裏腹に靄に包まれたような重く沈んだ音楽で開始されますが、やがて雲間から救済の光が射し、敬虔な祈りに満たされます!

第2曲のうち沈んだティンパニーの響きは、足枷を嵌められ、鞭打たれながら歩き続ける絶望的な音楽ですが、やがてその重苦しさを吹き払うように、心の深奥から湧きあがるような感動的な喜び!

第6曲冒頭部は、逍遙するような不安な合唱に始まり、この曲における唯一といってもよい激情的な音楽が展開されます。

“Tod、wo ist dein Stachel?(死よ!おまえの棘はどこにあるのだ)” “Hölle、wo ist dein Sieg?(地獄よ、お前の勝利はどこにあるのだ)”と絶叫される部分は、このレクイエムのクライマックスでしょう。

そして第7曲、艱難辛苦を乗り越えた末に得られる、神のもとでの静かな慶びに浸るように曲は終わります。


この曲の演奏では、地味ではあるのですが、終曲での静謐な感動が飛びぬけて素晴らしいジュリーニ/VPOの演奏を、もっぱら愛聴しています。

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