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シューマン:おとぎの絵本 

ユーリー・バシュメット(ヴィオラ)  ミハイル・ムンチャン(ピアノ) 


ドレスデン時代には精神の均衡が崩れ始めたシューマンでしたが、

1950年にデュッセルドルフのオーケストラの音楽監督として招かれ、環境の変化によって創作意欲が甦り、この時期には相次いで代表的な室内楽作品がを生み出されました。

ヴィオラとピアノのために書かれたこの曲もその一つで、ヴィオラの特徴である柔らかく翳りのある音色と曲想が見事に一致した、滋味あふれる傑作だと思うのです。


『おとぎの絵本(Maerchenbilder)』という名称の由来については不明なのですが、

ヴィオラの音色やそれが醸す曲想から、昔読んだ絵本を思い出しながら、若き日々の出来事を回想した音楽と考えても、まんざら的外れでもないだろうと思います…。


第1曲、ヴィオラによって歌われるメランコリーに溢れた旋律は、万感胸に迫る懐かしさが伝わってきます。

第2曲の荒々しくもユーモラスに感じられるギャロップのリズムは、シューマンが少年の頃に憧れた、自らの乗馬姿を思い出しているのでしょうか。

第3曲は、情熱を持って何かに取り組んだ、そんな日々の熱っぽさを懐かしむような音楽。

第4曲は、淡々としたピアノの伴奏に乗って、ヴィオラが懐かしい日々の記憶を述懐し、全てが永遠へと繋がっていくようなエンディング…。
心身ともに安らかなこの頃の心境が永遠に続くことを願った、祈りの音楽のように思えます。


ヴァイオリンやチェロの音色と比べると地味ではありますが、いったんその音色にはまると、汲めども尽きぬ奥深さを感じてしまいます。

シューマンが描いた唯一のヴィオラのための室内楽曲、バシュメットの華のある音色で奏でられると、室内楽曲の至高の名品と感じられるのです!

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