しかし、正直申し上げてこのソナタだけは、シューベルトが何を意図して作曲したのか、なかなか理解できなかったし、今もできていないだろうと思います。
これまで10種類ほどの演奏を聴いてきましたが、
シューベルトの心の内の閃きが、彼特有の美しいメロディーに昇華されないままに、
言い換えれば、何かに動揺しつつ、それを心の内で整理しきれないままに、
作曲家としての性に駆られて五線譜に書き連ねた音楽ではないか、と思っているのです。
その不安とは、シューベルトが罹患した、死をも覚悟しなければならない病に対するものだったのでしょうか。それとも…
内田光子さんの演奏するシューベルトのソナタを聴いていると、
作曲家が何を表現しようとしたのかを紐解くことよりも、
彼がこの曲を五線譜に書きつけていた時の心境に重きを置いて、曲を解釈しておられるように思うのです。
第1楽章では、何かに戦いを挑むように、ただがむしゃらに突進する音楽として表現されているようですし、
第2楽章では、何かにすがりつきたいような痛切な心の叫びの中に、おぼろげに彼岸への憧れが垣間見れる、そんな音楽として表現されていると思います。
第3楽章中間部の、模糊とした不安定な心情の表現…
弟4楽章に至ってようやく出現する、振り子時計のリズムにのって歌われる、無邪気で屈託のない、心を癒すような旋律は、
赤ちゃんをあやすために天井から吊り下げられたメリーゴーランドの奏でる音色を聴くような、そんな懐かしさが感じられます!
中間部では、ひと時のまどろみにたゆとうような、癒しの時が訪れます。
それまでの心の乱れを和らげる、解決の音楽なのでしょうか。
内田さんの解釈は、私が聴いた範囲では、どのピアニストよりもこの曲にはぴったりしている、
そんなことが実感できる素晴らしい演奏でした!