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フランク・ブリッジ:交響組曲『海』 

ヴァーノン・ハンドレー指揮  アルスター管弦楽団


20世紀の初頭のイギリス楽壇では、自国の民謡に依拠した作風が主流を占めていました。

今日エントリーする作曲家のフランク・ブリッジ(イギリス:1879〜1941)は、そんな中心人物の一人だったスタンフォードの薫陶を受けつつも、

同時代に台頭したフランス印象主義や、

スクリャービンに代表されるロシア象徴主義、

シェーンベルグ・ベルク・ウェーベルン等のドイツ表現主義など、

様々な音楽から影響を受けた作曲家と言われています。

そのために、曲ごとに作風が異なると揶揄され、仲間内では孤立した存在でしたが、

弟子のベンジャミン・ブリテンは恩師ブリッジを高く評価し、

『海』の影響が色濃く表れた『4つの海の間奏曲』や、『フランク・ブリッジの主題による変奏曲』などを作曲しました。


1910年に完成された交響組曲『海』は、

第1曲:海の風景、第2曲:海の泡、第3曲:月の光、第4曲:嵐、

以上のような副題が付けられ、

フランス印象派の代表作として知られるドビュッシーの同名の管弦楽曲の影響を強く受けたことは明らかでしょう。

しかしながらドビュッシーの『海』は、時間を追って刻々と変化する海の情景を、主情的な表現を斥けて音楽にしたものですが、

ブリッジの『海』は、逆に主情的な情景の描写に重きを置いて作曲されたものであって、ロマン派的な印象が強く残された作品と感じられます。


しかしながらこの曲を聴いていると、ロマン派の音楽の中に、フランス印象派の音楽が忍び寄ってくるのです。

例えば第1曲“海の風景”からは、

澄み切った空のもとに広がる大海原(視覚的印象)や、

鳥たちの声や遠く轟く海鳴り(聴覚的印象)とともに、

澄み切った大気の微妙に変化するさま(触覚的印象)までが感じられ、

それらの相乗的な効果によって、圧倒的な大パノラマを眺望するような感動が得られます。

また、第3曲の“月の光”からは、

夜の静けさの中で感じられる微妙な大気の変化(触覚的印象)とともに、

寄り添う人の、ほのかな香水の香り(臭覚的印象)までもが感じられたり…。

他に類を見ない、なかなかの佳作だと思うのです…。

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