彼のピアノ独奏曲中、最も数多く演奏されてきた作品と言われています。
それだけに、名演といわれるディスクも多いのですが
私がこれまでに聴いた演奏中、最も印象に残ったのは、イヴォ・ポゴレリッチによるものでした。
ブラームスのピアノ曲というと、一般的には、感情を高ぶらせることはほとんどない、淡々とした地味な曲と考えがち…。
それでもこの2曲などは、ブラームスの作品中では、感情の吐露の激しい作品だと思うのです。
そんな中で、ポゴレリッチの演奏は、
私が聴いた幾つかのCDと比較すると、他のどの演奏よりも自在なテンポルバートやダイナミックスが感じられることから、
多分“最も譜面通りでない演奏”だと思うのです…。
ロ短調の第1番、冒頭の和音を思いきり矯めた後、一気に迸るように奏される楽想は、
恰も思いつめていた感情が堰を切ったように迸り出るような、若々しい情熱が感じられ、一聴して惹きつけられました。
それに続くもう一つの楽想は、対照的に遅いテンポで、しみじみとした美しさをたたえて演奏されます。
中間部は一聴すると穏やかな民謡風の懐古的な音楽ですが、それはいかにもブラームス的な、諦観に支配された音楽と感じられます。
第2曲の第1主題は、厳格な意思を感じさせるように力強い音楽ですが、
第2主題から展開部にかけては、一転して表情豊かな美しい旋律に…。
ポゴレリッチ奏する音色の、微妙で美しい変化は、
霧雨に煙るような情感と、雨粒に映る光の変化までが表現されるようで、ある意味ブラームスらしくないのかもしれませんが、
夢のようにはかなく美しい情景を髣髴させてくれます!
演奏が奇抜すぎるとするとの理由でショパンコンクールの本選に落選した際、
審査員の一人だったアルゲリッチが、講義・辞任したことで、一躍名を挙げたポゴレリッチ。
そのニュースを聴いた時には、アルゲリッチの真意は全く理解できなかったのですが、
このブラームスを聴いていると、曲が作られた時の作曲家のパッションがそのまま伝わってくるようで、
他の演奏が、単に形骸化した常識の範疇を超えないだけのように感じられた次第です。