颯爽とした若々しさの中にメランコリーな抒情も感じられ、初演された当時から広く親しまれていた作品と言われています。
今回エントリーするのは、1992年に録音されたウィーン室内合奏団による演奏ですが、
リーダーでウィーンフィルのコンサートマスターでもあったゲルハルト・ヘッツェルは、この録音の1カ月後に、登山中に転落死したために、
彼にとっても、この合奏団にとっても最後の録音となってしまいました。
第1楽章、アダージョで開始される冒頭部分から、何とも言えない蠱惑的な音色に惹かれますが、
一転して軽快なテンポで展開される主部では、心地よい風を受けながらオープンカーを走らせるような趣の、爽やかで軽快な音楽が!
この爽やかさは、同じウィーンフィルのメンバーで構成される他のグループとは異なった、この合奏団の真骨頂だと思うのです。
第2楽章は、黄昏時に戸外で寛ろぎながらながら夕焼けを見るような、心地よい安らぎの音楽。
こちらはウィーンフィル特有の弦や管の音色が醸し出す、雅な美しさをたたえた音楽です!
第3楽章は、ピアノソナタ第20番の第二楽章から引用され、『ソナチネアルバム』第1巻の15曲目にも収載されている、耳慣れた音楽です。
第4楽章の変奏曲は、私がベートーヴェンを聴く楽しみの一つです。
民謡から採られたという主題が提示された後は、この合奏団の素晴らしい演奏が展開されます。
第1変奏から順に、肩で風を切って歩くように、早瀬を流れる水のように、森にこだまする鳥たちの声のように、夕映えの残照のように、そして心安らぐひと時を迎えるように…
変奏ごとに多彩なイメージが湧いてくる、素晴らしい楽章です。
第5楽章の、狩りを思わせるホルンの響きやファゴットのとひょうきんな表情や、
トリオ部の、絶妙のテンポ感で奏でられるチェロの旋律の、屈託のない伸びやかな美しさ!
終楽章は、のびのびとした開放感のある音楽ですが、
それまでの5楽章が素晴らしかっただけに、この楽章で曲が終わってしまうことに、いつ聴いても物足りなさを感じてしまうのです…。
この曲が素晴らしいと思うからこその、不満ではあるのですが…。