1844年にドレスデン移住後、精神の均衡が崩れる前兆が表われ始めたシューマンでしたが、
1950年にデュッセルドルフの管弦楽団・合唱団の音楽監督として招かれたことによって心機一転、
再び旺盛な創作意欲が甦り、交響曲第3番『ライン』や、多くの室内楽曲が誕生しました。
チェロ協奏曲も、その頃の作品の一つです。
この曲は、デュッセルドルフの風光明媚さを反映させたような、交響曲第3番の明るく伸びやかな曲想とは異なり、
曲全体が、ロマン的な憂愁に包まれた、そんな趣の作品です。
シューマン好きの私は、この曲の演奏を何種類も聴いてきましたが、
オーケストラが地味に書かれているせいか、
どの演奏を聴いても独奏チェロのインパクトが強すぎると感じられ、
曲想と合致するような演奏には、なかなか出会えませんでした。
ところが、今回エントリーしたヤーノシュ・シュタルケルの演奏は、
しみじみと過ぎ去りし日の想い出を語る、燃えるような情熱を内面に秘めた淡々とした独奏チェロの静謐さと、
デニス・ラッセル・デーヴィス指揮するバンベルク交響楽団の渋い音色とが、ぴったりと合致していると思えました。
全曲を通して、セピア色に変色した懐かしい白黒写真を見るような、
そんな趣が感じられる、曲想に合致した素晴らしい演奏だと思います。