最近聴いたCD

フレデリック・ショパン バルカロール(舟歌)op.60 

ピアノ:ディヌ・リパッティ


1846年、ショパン36歳の作品。

当時の彼は、患っていた結核が悪化し、経済的にも逼迫しつつあった上に、ジョルジュ・サンドの娘の結婚に関する深刻な家庭内騒動に巻き込まれ、不穏な日々を過ごしていました。

そんな状況に置かれながらも、自らの芸術に、個人的な感情の紆余曲折が曲に反映することを潔しとしなかったのでしょう。

私がこれまで聴いてきたショパン作品の多くは、

それらの感情を、民族的な誇りや、純粋な美へと昇華させたものだと感じるのです。

『バルカロール』もまた、心身ともに憔悴しているはずの時期に、渾身の気力を振り絞って書かれた作品なのでしょう。

高貴で美しい音楽ですが、波と舟の揺らぎを思わせる12/8拍子の伴奏に乗って歌われる旋律は、演奏者によって実に多様な表現がなされていると思うのです。


この曲をいろんな演奏で楽しむようになったのは、比較的最近のことです。

結構長い間、伴奏部分の揺らぎが大きな、クラウディオ・アラウの演奏に、男っぽいロマンの香りをを楽しんでいたのですが…、

ホロヴィッツの1957年の演奏では、静謐で気高い演奏の美しさに惹かれるのですが、ただ後半部があまりにも堂々と盛り上がるために、曲想に合致しないように思えるのです…。

ポリーニの演奏は、曲の流れに沿ったごく自然なもの。静謐で気高い中にも、感性の鋭さが垣間見える、理想的な演奏ではないでしょうか。


しかし、1948年に録音されたリパッティの演奏には、悲しいまでの美しさが漂います。

特に、中間部で12/8拍子の伴奏が止み、嬰ハ短調に転調される部分の、寂寥とした孤独感には、凄味すら感じられて…!

当時、不治の病と言われた白血病に蝕まれていたリパッティとショパンとを、つい重ね合わせて考えてしまうのです。

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