それだけではなく、曲としても大変に内容の充実した作品でもあります。
1959年にカナダに生まれた、ルイ・ロルティというピアニスト名を知ったのは、3年ほど前のことでした。
私と感性が似ていると思っていた方のホームページ(今はお止めになっているようです)に、
「彼が弾くショパンの練習曲は、技術的な難所がごく当たり前のようにクリアされているが、ヴィルトオーゾ的な演奏とは一線を画した、詩的な表現…」
そのように評価されていたのを読んで、興味を持ち、ディスクを買ったのです。
この曲には、1972年に録音されたポリーニの演奏が、いまだに高い評価を受けながら燦然と輝いています。
ポリーニの演奏をまだお聴きでなければ、「是非に!」とお薦めすることに吝かではありません。
完璧な技巧に支えられた、逞しく筋肉質な若々しさは、それまでのロマンティックでサロン的なショパン感を完全に払拭した、画期的な演奏と評価されているからです。
しかし単に技巧が完璧なだけではなく、炎のような情熱、ほのかな詩情、そして鋼の意志が全曲を貫いていると感じられます。
この演奏は、いつ聴いても技巧的な鮮やかさには「凄っごい!」と驚嘆しますが、それ以上にそれぞれの曲の、充実した美の世界に惹きこまれていくのです。
ロルティの演奏を聴いていると、「技術的な難所がごく当たり前のようにクリア…」されているためか、ポリーニのようなヴィルトオーゾ的な凄味を感じることはありません。
ですが、この演奏の素晴らしさは、それぞれの曲が、極めて詩的に表現されていることです。
例えば、第6番変ホ短調では、窓の外に降る氷雨を見ながら物思いに耽るような感慨が…
第8番ヘ長調では、光によって刻々と変化する水玉の色彩を表現したような…
第9番ヘ短調では、やるせない恋心がいや増すような情熱が…
この演奏を聴いていると、嘗てショパン演奏の権威と言われ、20世紀前半に活躍したアルフレッド・コルトーの詩情あふれる演奏と、つい比較してしまいます…。
コルトーの演奏は、私には感情過多と映ってしまうのですが、
ロルティのそれは、見事にコントロールされて表現されていると思えます。
特に、op.10の秀逸さに惹かれ、あえてこちらの方だけを挙げさせていただきました。