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シューベルト:ピアノ・ソナタ第19番 ハ長調 D958

ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ


シューベルトの最後の3つのピアノ・ソナタは、1828年の9月、死の僅か2ヶ月前に完成されたもの。

前年の3月に逝ったベートーヴェンへの追憶が込められていると言われていますが、

同時に、いやそれ以上に、病魔に侵されて迫りくる自らの死をも、意識した作品でもあります…。


ベートーヴェンの『32の変奏曲ハ短調WoO,80』の冒頭のテーマと、非常に類似した曲想の第1楽章冒頭は、何かに憑かれたような異様な熱っぽさが…。

ポリーニの演奏で聴くこの楽章は、そんな熱っぽさの中に、夢見るような憧れが幻のように美しく浮かんでくる、そんな印象を抱きます。

第2楽章は、死への不安に打ちひしがれたのか、行くあてもなく野を彷徨うような、やりきれないほどに孤独な心境が滲み出た演奏です。

第3楽章主部の優しさげな音楽と、トリオ部のメランコリーな気分には、一場の春夢のような儚さが…。

そして終楽章は、この演奏の白眉ではないでしょうか!

活き活きとして、心躍るような躍動感に溢れた音楽にもかかわらず、何かに追い立てられるような気ぜわしさが感じられて、そこに儚い悲しみが漂い、涙があふれ出て止まりません。

31歳!次から次へと素晴らしい音楽が湧き出ずる創作の絶頂期に、

それらを後世に残すために譜面に書き留めるには、残された時間があまりにも少ないことを知るシューベルトの、もどかしさと切なさが、この終楽章から聴き取れるように思うのです。


シューベルトの死の年の1828年には、ピアノソナタ第19〜21番・弦楽五重奏曲・ミサ曲第6番等の、素晴らしく深みのある音楽が、次から次へと創作されています。

「構想された作品の全てを譜面化するには、残された時間が余りに少なかったのではないか」

ポリーニの演奏を聴いていると、死の床に就いたシューベルトの無念さが痛感できるように思えるのです。

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