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アルヴォ・ペルト:スターバト・マーテル

L.ドーソン(S)、D.ディヴィス(C.T)、R.C.クランプ(T)
G.クレーメル(Vn)、V.メンデルスゾーン(Va)、T.デメンガ(Vc)


三年ほど前から時々お伺いしている木曽のあばら家さんのブログで、アルヴォ・ぺルトの作品が採り上げられており、あの静謐感が無性に懐かしくなってきました。


ぺルトは、1935年エストニアに生まれ、現在も作品を発表し続けている作曲家。

東方教会の単旋律聖歌の美しさに惹かれ、グレゴリオ聖歌や中世・ルネッサンスの音楽を研究することによって、

1970年代の半ばに、“チリンチリン”と鳴る鈴の音を連想させるような、単純なリズムと抑制された動きのみで貫かれる、ティンティナブリ(鈴音)様式を産み出しました…。


彼の音楽は、決してドラマティックな展開を見せず、僅かに形を変えて繰り返されていくだけなのですが、

前述した様式によって、独特の静謐感が緊張感を失うことなく継続するために、

聴き手は、他の音楽からは決して得られない、穏やかな安らぎに包み込まれるのかもしれません。


『スターバト・マーテル(悲しみの聖母)』は、弦楽三重奏とソプラノ、カウンター・テナー、テノールによって演奏されるもの。

冒頭部で、虚空から密やかに聞こえてくる弦とヴォカリーズの響きは、余分な感情が削ぎ落とされているためか、純粋でまっさらな心の痛みを表現した、類稀な瞬間を感じさせる音楽です!

ヴォカリーズが終わり、スターバト・マーテルの詩が歌われる前の、弦だけで奏される悲しみを鎮めるような音楽の、えもいわれぬ安らぎ感等々…!

25分の演奏中に三度、悲しみに胸かきむしられるような早いパッセージが現れますが、それ以外には曲に大きな展開はありません。

しかし、緊張感が途切れることなく、静謐さに満たされながら、非日常的な時間が経過していきます。


鐘消えて 花の香は撞く 夕べかな(芭蕉)

この曲が収録されている、ライナー・ノートの冒頭に記された一句です。

ぺルトの創造する静謐な世界を体験すると、言葉使いが意味不明に思えるこの句が、何とも味わい深く理解できるように感じられるのです。

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