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ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第10番

パールマン(ヴァイオリン)  アシュケナージ(ピアノ)


ベートーヴェンの有力なパトロンであり、ピアノの弟子でもあった、18歳年下のルドルフ大公のために書かれた作品。

ベートーヴェンが、生涯友情を全うした唯一の貴族であり、

ピアノ協奏曲第4番、歌劇『フィデリオ』、ピアノソナタ第26番『告別』、同29番『ハンマー・クラヴィーア』、ピアノ三重奏曲『大公』、『ミサ・ソレムニス』などの多くの重要な作品が、彼に献呈されています。


この曲も彼に献呈されたうちの一つですが、パールマンのヴァイオリン、アシュケナージのピアノによる演奏聴くと、多くの演奏から感じられる柔和で穏やかな曲想に加えて、

気取りのない思いやりや優しさ、それにちょっとしたユーモアが感じられて、最近は好んで聴くようになりました。

ベートーヴェン最後のヴァイオリン・ソナタだからとか、中期から後期への橋渡しの時期の作品だからという理由で、深い内容を詮索する必要は全くないと思います。

18歳年下のルドルフ大公に対する親しさの証として、感謝の気持ちを込めて作られた私的な感情を有する曲と感じられます。


第1楽章冒頭のヴァイオリンとピアノの、胸打ちふるえるような旋律の応答は、初めて出会った若い男女が交わすぎこちない挨拶のような、微笑ましい初々しさが感じられます。


第2楽章は、美しく穏やかなヴァイオリンの音色に心が奪われるのですが、

その旋律が、着くべき所に落ち着かずにさまよう曲想は、異性に心を乱された人物の心情を、思い浮かべてしまいます。

どことなくユーモアが感じられるのは、自身の身に起きたことではなく、親しい友人であるルドルフ大公の身辺の出来事を、温かく見守りながら描いているのではないのでしょうか。


希望に満ちていきいきとした表情のスケルッオと、中間部の美しいワルツが印象的な第3楽章。

2分前後の短い曲ですが、大変に充実した内容です!


第4楽章の主題の提示部で、基本となる旋律が転調されるさまは、まるでシューベルトの作品のような美しさ!

この主題が、屈託のない遊びを思わせるように、明るく楽天的に、時に美しく変奏され、後半は情熱的に盛り上がります。


艱難辛苦に立ち向かいながらも、その一方で理解あるパトロンに恵まれたお蔭で、このように平穏で美しく、時に温かいユーモアまでをも感じさせる音楽を作ることができたのでしょう。

幸福感に満ちた、室内楽の佳作だと思います。

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