名作と言われる弦楽四重奏曲第14〜19番(ハイドン・セット)も、弦楽四重奏曲の古典主義的ソナタ形式を確立したハイドンのロシア四重奏曲(op.33 全6曲)に触発され、
彼に献呈するために、作曲中も試行錯誤を繰り返し、
モーツァルトとしては異例に長い、2年の歳月を要して完成された作品。
いずれもが素晴らしい曲なのですが、部分的にはモーツァルトらしからぬ明快さにかけた難渋さを感じることがあります。
そんな中で第14番は、ハイドンセットの中でも、私の大好きな一曲。
嘗てアルバンベルク弦楽四重奏団の演奏(1987年録音)を愛聴していた頃は、充実したアンサンブルが醸し出す大きなうねりや音色の美しさに惹かれ、
中でも終楽章の無限の拡がりを感じさせるフーガ風の楽想は、後期の3大交響曲のような、成熟した音楽と認識していたのです。
しかしここ数年は、ハーゲン弦楽四重奏団の演奏を好んで聴くようになりました。
この演奏の、恰も鳥たちの囀りのように、それぞれの楽器が歌い交わすいきいきとした表情の中に、
言い知れぬ愉悦感と、素晴らしい深みを併せ持った音楽と感じるようになりました。
特に第2楽章トリオ部分の深い悲しみを感じさせる音楽や、
第3楽章では、曲の進行に伴って各楽器の動きに精緻さが加わり、音楽はますます深化していくように感じられます。
そして前述した終楽章のフーガは、聴く度に、快晴の秋空の下で行われた、子供の頃の運動会のワクワク、ハラハラ、ドキドキするような、懐かしい感慨を思い出させてくれます!
これは、モーツァルトの弦楽四重奏曲の素晴らしい演奏だと思います。