その時期に多くのイタリア風カンティレーネ(小謡)に接することにより、彼の想像力が一層刺激されて、
その後の数々の傑作を誕生させる糧となった、とも言われています。
交響曲第28番は、三度のイタリア旅行を終えた17〜18歳時に書かれた彼の交響曲の中でも、
ト短調の第25番、後期の円熟を思わせる第29番とは一味違った、爽やかな抒情が感じられて、昔から好きな曲の一つでした。
コリン・デーヴィス指揮するSKDのCDは、横への流れが印象的な演奏で、そんな中で穏やかに移ろいゆく曲想が、とりわけ美しく感じられます。
第1楽章は、冒頭から木々の間を吹き抜ける爽やかな風や、鳥のさえずりを描写したような趣が感じられますし…
第2楽章は、ゆったりとしたドナウの流れの、川面に映しだされる移ろいをみるような、そんな風情を思い浮かべます…
第3楽章、弦の奏する流れの中で奏されるホルンの音色は、突出することはありませんが、大変に印象的なもの。
名手ダムが奏しているのでしょうか…。ひそやかな音色が持つ深い味わいは、極めつけの演奏と申せるでしょう。
爽やかに吹きぬける風を思わせる第4楽章冒頭に続き、
第1主題は、私は中学生時代に好きでよく歌っていた『旅愁』のメロディーを思い出すからでしょう、いつ聴いてもノスタルジーを感じます。
微妙に刻々と表情を変化させてゆくデーヴィスの演奏を聴くと、そんな思いが一層高まってきます。
秋の気配が感じられる昨今になると聴きたくなる、私の大好きなモーツァルト演奏の一つです。