沈め
詠うな
ただ黙して
秋景色をたたむ
紐となれ
武満さんの音楽に、大変に深い影響を与えた一人に、フランスの作曲家ドビュッシーがいます。
ドビュッシーの作品を聴いていると、
例えば管弦楽曲の『海』『夜想曲』や、ピアノ曲の『前奏曲』第1、2巻を始めとする多くの作品からは、
光に映えながら刻々と変化する波や雲、或いは風にそよぐ木々の動きのように、具体的な視覚的イメージを抱けるのですが、
管弦楽曲『遊戯』、『弦楽四重奏曲』、『(ピアノのための)12の練習曲』等のように、
五感全てに訴えかけるような、複雑で、言葉には表現できない感銘を受ける曲もあります。
ところで、以前に武満さんの何かの曲を聴いた時には、なるほどドビュッシーに似ていると思いましたが…
ヴィオラとオーケストラのためのこの曲を聴いていると、他の誰の音楽からも聴くことのできない独創性を感じました。
具体的に言うと、“晩秋の冷涼な大気の揺らぎ”が肌に触れるような質感を持つ、比肩するもののない、孤高の音楽と感じたのです。
そして弦楽とヴィオラソロの掛け合いは、自然と人間とが対話するような瞑想的なもの。
小沢さんと今井さんのコンビだからこそ創り得た、瞬間なのでしょうか…。
移ろいゆく四季の変化を鋭敏に感知しうる、日本的な感性が表現された、素晴らしい作品だと思います。