深い諦観とほの暗い情熱に溢れたこの曲は、
モーツァルトの五重奏曲と並んで、クラリネットのために書かれた全ての作品の中でも、最高峰のものと評価されています。
この曲の演奏には、50年以上前に録音され、今日に至るまで高い評価を受け続けている、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団+レオポルド・ウラッハ(cl)の録音がありますが、
今日は私の好きなもう一つの演奏、アルバンベルク四重奏団+ザビネ・マイヤー(cl)のCDを聴きました。
第1楽章は、弦が奏する恋焦がれるような情熱と、それを包み込むようなクラリネットの大らかな優しさが印象的な演奏です。
この五重奏曲全体の印象を、よく“ブラームス晩年の諦観…”と表現されますが、
アルバン・ベルク四重奏団の演奏を聴くと、むしろ夢と情熱が漲った、若々しい優しさを感じるのです。
第2楽章は、冒頭から漂う寂寥感が、全体を支配するのですが、
それは孤独な老人の述懐ではなく、
今が幸福だからこそ、過去の苦しみも、美しい想い出として回顧できる、そんな穏やかな心境が感じられるのです。
第3楽章は、小春日和を思わせる穏やかさに、時折一陣の風が舞うような、爽やかさが…。
そして変奏曲形式の第4楽章は、過去の様々な思いが、各変奏毎に万感の想いを伴って蘇ってくる、そんな懐かしさが感じられます。
ブラームスの生涯を考える時、クララ・シューマンの存在を無視することはできません。
二人の関係については、様々な憶測が成り立つとは思いますが、
少なくともこの曲が完成した1891年の時点では、未だに夢のような存在であったのだろう!この演奏を聴いて、そんなことを思い浮かべました。
この幸福感に満ちた演奏、是非一聴されることをお薦めします。