1曲目:遠くの歌、2曲目:ミニョン、3曲目:初めての失恋、4曲目:山のかなたに、5曲目:夜明け、6曲目:墓碑銘、7曲目:夕べに、8曲目:素敵な女性よ、9曲目:私は野原を避けて行きたい
リッケルト、ゲーテ、ブッセ等、様々な詩人の作品が選ばれています。
標題のJugendlieder(若き日の歌)とは、作曲者自身や楽譜出版の際に付けられたものではなく、CDに収録された16〜20歳の作品を一括りにして、このように命名したもののようです。
ベルクの初期作品には、マーラーやR.シュトラウスなど後期ロマン派の影響が色濃く反映されていると言われますが、
私には更に遡って、シューベルトやシューマン、ブラームスの歌曲との共通点すら感じられるのです…。
9曲の中で最も有名な詩は、南国への憧れを歌ったゲーテの“ミニョン”。シューベルトやシューマンが同名の歌曲を作曲し、J.シュトラウス2世のワルツ“シトロンの花咲く所”の誕生にも寄与しているとか。
また、ブッセの“山の彼方に”は、上田敏の名訳で知られ、三代目三遊亭圓歌師匠が歌奴だった時代に、「山のアナアナ…」で人気を博したために、ある年代以上の方の殆んどは、ご存知ではないでしょうか。
ベルクは15歳の時に父親を亡くし、
17歳の時には、ベルク家の別荘で働いていた女性との間に生まれた私生児の父親となったり、
ギムナジウム(中等教育機関)の卒業試験に落ちて自殺を図ったりと、波乱万丈の青春期を過ごしました。
そのせいか、これらの曲には、青春期特有の夢や冒険心や挫折感を内包しつつも、一方では暗く冷たい、過剰なまでにナイーヴな感情が表現されていると感じられます。
父親の死以降に訪れた数々の逆境によって、安易に憧れに身を委ねることができなくなった作曲家の心情が、自ずと滲み出ているのかもしれません。
私がこのディスクを愛聴するようになったのは、小細工を弄さず、豊かな表情でまっすぐに歌われる白井さんの歌唱があればこそ、と思っています。