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ベラ・バルトーク:弦楽四重奏曲第1番

タカーチ弦楽四重奏団


澄んだ悲しみを思わせるエレジー風の第1楽章冒頭部は、

カノン風に曲が発展するにつれて、徐々に痛切さを増し、

全てを断ち切るかのように、チェロが強奏されます…。

断腸の思いを感じさせるこのパッセージも、やがては昇華されて、諦観を漂わせながら第1楽章は終わります。

休みなく続く第2楽章は、活気に満ちたハンガリーの農民の舞曲。
燃え上がるようなエネルギーをぶつけることによって、心の安らぎが見出せる、そんな逞しさが感じられっる音楽です。

第3楽章冒頭は、一転して慟哭するような痛切な音楽で開始されます。

しかしすぐに湧きあがるハンガリー民謡は、悲しみを振り切る力を増し、勝利に向かって突進していくような逞しい高揚感を伴って、まさに民族の誇りを象徴するような音楽へと進化します。

この第1番を作曲した頃のバルトークは、以前から交際していたシュテフィ・ゲイエルという女性と、互いの宗教観や死生観の違いから距離をおくようになりますが、

その一方では、自ら教職を務めていたブタベストの音楽アカデミーの学生で、後に妻となった、マルタ・ツィグラーと出会っていたそうです…。

当時の作曲家の心の経緯を辿るような、私的な音楽と考えても、まんざら的外れではないようにも思えますが…。

にもかかわらず、ひたすら情緒的に偏ることなく、力強い人間のエネルギーへと進化するこの作品は、単なる楽天的な音楽とは明らかに一線を画するもの!

最近、タカ―チ弦楽四重奏団の演奏(1990年録音)を聴くようになってからは、これまで以上に素晴らしい曲だと思うようになりました。

特に第3楽章に聴ける、魂を揺さぶるような歌心と、切れば鮮血がほとばしり出るような白熱した演奏は、特筆ものです!

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