最近聴いたCD

アントニオ・ヴィヴァルディ:スターバト・マーテル
(悲しみの聖母)

カウンターテナー:ミカイル・チョイス
トレヴァーノ・ピノック指揮  イングリッシュ・コンソート


スターバト・マーテル(悲しみの聖母)とは、13世紀にヤーコポーネ・ダ・トーディにより作詩されたカトリック教会の聖歌の一つ。

我が子イエスの死を悼む、母マリアの悲しみを歌った内容です。

この詩に曲をつけた作曲家は、パレストリーナ、スカルラッティ、シューベルト、ロッシーニ、ドヴォルザーク、シマノフスキー、プーランクを始め、有名無名を含めると、実に600名を超えると言われています。

宗教的背景もあるのでしょうが、これだけ多くの芸術家の創作意欲を高めるということは、それだけ内容の深い詩だということでしょう。

もしかすると、この作品群を軒並み聴くことが出来れば、無名作曲家の素晴らしい曲が発見できるかもしれません…。

ヴィヴァルディの『スターバト・マーテル』は、弦楽合奏・テオルボ・オルガンとアルト(或いはカウンター・テナー)のための作品。

この曲は、つい最近聴き始めたばかりなのですが、ピノック指揮するイングリッシュ・コンソートの美しい音色は、地中海の真っ青な秋空を思わせるような、爽やかな冷涼さが感じられる美しさ!

それをバックにした、マイケル・チャンス(カウンターテナー)の真摯ながらふくよかな歌唱は、抑制された悲しみが、心に沁み入るような素晴らしさです。

ヴィヴァルディは、バロック期の作曲家の中でも、当時としては先鋭的な作曲技法を駆使し、表現の幅も拡大した人だろうとは感じられますが、

それでも、今や20世紀音楽にも親しめるようになった私には、やはり限られた作曲技法の範囲内でのジレンマと闘いながら、精一杯の表現を試みた人だと思えるのです。

だからこそ、ヴィヴァルディの音楽は素晴らしいと思えますし、この曲にしても、これまでになかったような清明な感覚に溢れる中に、聖母マリアの悲しみを十全に表現した、素晴らしい作品だと思います。

この曲を聴いて、私はヴィヴァルディの声楽曲に一層興味がわいてきたのです。

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