我が子イエスの死を悼む、母マリアの悲しみを歌った内容です。
この詩に曲をつけた作曲家は、パレストリーナ、スカルラッティ、シューベルト、ロッシーニ、ドヴォルザーク、シマノフスキー、プーランクを始め、有名無名を含めると、実に600名を超えると言われています。
宗教的背景もあるのでしょうが、これだけ多くの芸術家の創作意欲を高めるということは、それだけ内容の深い詩だということでしょう。
もしかすると、この作品群を軒並み聴くことが出来れば、無名作曲家の素晴らしい曲が発見できるかもしれません…。
ヴィヴァルディの『スターバト・マーテル』は、弦楽合奏・テオルボ・オルガンとアルト(或いはカウンター・テナー)のための作品。
この曲は、つい最近聴き始めたばかりなのですが、ピノック指揮するイングリッシュ・コンソートの美しい音色は、地中海の真っ青な秋空を思わせるような、爽やかな冷涼さが感じられる美しさ!
それをバックにした、マイケル・チャンス(カウンターテナー)の真摯ながらふくよかな歌唱は、抑制された悲しみが、心に沁み入るような素晴らしさです。
ヴィヴァルディは、バロック期の作曲家の中でも、当時としては先鋭的な作曲技法を駆使し、表現の幅も拡大した人だろうとは感じられますが、
それでも、今や20世紀音楽にも親しめるようになった私には、やはり限られた作曲技法の範囲内でのジレンマと闘いながら、精一杯の表現を試みた人だと思えるのです。
だからこそ、ヴィヴァルディの音楽は素晴らしいと思えますし、この曲にしても、これまでになかったような清明な感覚に溢れる中に、聖母マリアの悲しみを十全に表現した、素晴らしい作品だと思います。
この曲を聴いて、私はヴィヴァルディの声楽曲に一層興味がわいてきたのです。