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トマ:歌劇『ミニョン』序曲

ポール・パレー指揮  デトロイト交響楽団


異国情緒を感じさせるクラリネットの旋律がフルートへと引き継がれ、

ついで、きらびやかに美しいだけではなく、期待と不安が入り混じった気持の高揚を表現したようなハープのグリッサンドが奏されて、

静かに語りかけるようなホルンソロによって、よく知られた“君よ知るや南の国”の旋律へと引き継がれていく序奏部。

ポール・パレー/デトロイト交響楽団の演奏を聴くと、毎年近くの海に海水浴に行った時に、港に浮かぶ外国航路の船を見て、異国へ旅する日を夢見た、そんな幼い日を思い出すのです。

他のどれよりも、遠く離れた異国への憧れを掻き立てるような、強い旅情が感じられるのです。

『ミニョン』とは、ゲーテの小説『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』に登場する、数奇な運命に翻弄された薄幸の少女の名前。

生まれて初めての恋心を抱いたヴィルヘルムに対し、自分の生まれ育った国について語る場面で歌われるのが、先に述べた“君よ知るや南の国”。

 ご存知ですか、レモンの花咲く国を
 深い葉陰にはオレンジが実り
 青い空には爽やかな風が流れ
 その国へ!その国へ!
 あなたと二人で行きたいのです

交通網が未発達な時代の、帰ることすらままならない遠い故郷への憧れは、我々現代人が考える以上に、見果てぬ夢を追うようなものだったのかもしれません。

そんな感慨が、見事なまでに表現された序奏部であり、私にとっては、毎年の夏休みに、船を見た時に覚えた感慨が蘇える音楽なのです。

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