代表作の交響組曲『シェラザード』完成後すぐに作曲に取り掛かり、わずか2か月で仕上げられたもの。
『ロシアの復活祭』は、彼が修道院の傍で過ごした、幼い頃の印象を基に作曲したと証言しているそうで、その影響もあってか、ロシア正教会の聖歌集から4曲が引用されています。
昔から宗教とは全く縁のない人間なのですが、賛美歌を聴くと、無性に親しみや懐かしさを感じるのは、何故なのでしょうか。
とにかく、40年以上前に初めてこの曲を聴いた時、ロシアの清々しい空気と共に、そんな感慨を抱いたものでした。
その懐かしさは、昭和20年代から30年代前半にかけての、高度成長期以前の日々の生活で感じた、のどかな心象風景に相通じるものだと思います。
もう20年ほど前のことですが、らい病に対する誤解が解け、罹患された患者さんや家族の方が隔離生活強いられていた島に、外界との往き来の象徴となる橋が完成した直後に、仕事でそこの診療所を訪れる機会がありました。
故なき理由で長年の隔離生活を強いられた方に対する、不埒な発言とお感じになるとすれば、お許しいただきたいと思いますが、
島に漂う雰囲気には、当時すでに私達が失ってしまった、昭和20年代から30年代前半の想い出の中にある、人とのふれあいを中心にしたのどかな生活を身に沁みて感じ、
懐かしさに目頭が熱くなったことを覚えています。
その時に頭に浮かんできたのが、この曲の冒頭の部分だったのです。
今日、これまで未聴だったスヴェトラーノフ指揮するフィルハーモニア管弦楽団の演奏を聴いたのですが、
曲前半部のゆっくりとした音楽からは、雲一つない青空のもと、鳥たちのさえずりが聞こえてくるのどかな風景が、
そしてアレグロと表示された後半部の、開放感あふれる祝祭的な愉しげな音楽からは、祭りに出かける前の心の高鳴りが感じられて、
幼い頃にタイムスリップしたような感慨を得ることができました。