最近聴いたCD

シューベルト:ピアノソナタ第18番『幻想』

ピアノ:アルフレッド・ブレンデル


この曲が『幻想ソナタ』と呼ばれるのは、初版譜に“幻想曲”と記されていたことによるもの。

ピアノソナタではありますが、“幻想曲”の定義通りに、「形式にとらわれず、自由に構成された作品」という意味に解釈しておけばよいのでしょう。

この曲は、第一楽章から素朴ながらも歌心に満ちた旋律と、繊細な情感の移ろいが素晴らしいと思うのですが、

形式上、曲の全体像を明確に掌握することが難しいためか、

全4楽章を、退屈することなく聴き通せる演奏に出遭うことは、他のソナタよりも少ないように感じています。

そんな中で、初めてこの曲の素晴らしさを感じさせてくれたのがブレンデルの1988年録音の演奏でした。

シューベルト28歳時のこの作品は、当時不治の病を患い、31歳で夭折した彼が、死を意識しながら作曲したものであると言われています。

第1楽章の第1主題は、憧れとため息が同居した歌のように感じられますが、ブレンデルは単に歌うだけでなく、意識的に明瞭なタッチで演奏することによって、上昇を志向する音楽として表現しているように感じます。

その明るさは、死を意識化に持つシューベルトの、健気にも思える心を表現していると感じられ、演奏の深みが一段と増しているように思われます。

第2楽章第1主題は、平常心を装ったように聴き取れるのですが、第2主題は、一転して何かを希求するような熱っぽさが伝わってきます。シューベルトの心の葛藤が表現されているのでしょうか。

第3楽章の力強いメヌエット主題と、余りに美しい憧憬に満ちたトリオ部との対比は、切なさがこみ上げるような音楽と感じます。

第4楽章は、明るさを装い、おどけたようなステップを踏む舞曲風の音楽。しかし、ついには虚空に吸い込まれるように消え去り、自らの短い生涯をを暗示するかのように、曲は終了します。

あまりにも美しく、儚い音楽だと思うのです……。

ホームページへ