最近聴いたCD

メンデルスゾーン:無言歌集op.19他

ピアノ:田部 京子


“ギーゼキング以来の名演”

15年ほど前に、新譜コーナーに並べられていたCDの帯に書かれていた、こんなコピーにつられて買ったディスクでした。

とは言っても、田部京子というピアニストの名前は、それまでに一度も聴いたことはありませんでしたし、

ギーゼキングの名も、高名なピアニストとして知ってはいましたが、その演奏を聴いたことは、一度もありませんでした。

まさしく、直感的な衝動買いだったのですが、レジで代金を支払う時には、すでに後悔していました。

しかし、「折角買ったのだから…」と気を取り直して、冒頭から聴き始めましたが…。

第1曲目のop.19-1『甘い想い出』を聴き終わった時には、「何と感性の豊かなピアニストだろう」と感心し、後悔は大いなる満足に変わっていました。

『○○名曲集』の類の演奏を聴いても、淀みなく流れるようなメロディーを、美しいと感じることはよくあります。

しかし田部さんの演奏を聴いていると、

“可憐さ”“愛おしさ”“けなげさ”“恥じらい”……

若い頃に憧れの異性に感じた想いが、次々に蘇ってきます。

先ほど挙げた“甘い思い出”にしても、アルペジオの伴奏にのって、優しい息づかいを感じさせながら、ゆったりと流れる美しいメロディー…

その音楽に、若い女性の“戸惑い”や“恥じらい”を聴き取って、胸が締め付けらるような思いを抱いたのは、どうやら私だけではなかったようです。

このディスクを聴いていると、それぞれの曲から、それぞれの想いが伝わってくる名演奏だと思いますし、

現に、こういった小曲集には珍しく、

飽きることなく、今も時々取り出しては耳を傾けることができる、愛聴盤の一つとなっています。

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