最近聴いたCD

シューベルト:交響曲第8番『未完成』

ギュンター・ヴァント指揮  ベルリン・フィル


私が学生だった頃は、『運命』『新世界』と共に、三大交響曲の一つとして、大変人気の高い曲でした。

この曲は、ロマンティックな味わいの中に、時にデモーニッシュな、時に神々しいまでの美しい表情を見せる曲、

LPを聴いていた頃には、そんな印象を抱いていました。

しかしCD時代に入って、迂闊にもLPを手放す決断をしたために、

前述したような、ロマン的な味わいをもつ古い録音を聴く機会が、めっきり少なくなってしまいました。

それは、シューベルト研究による認識の変化や、近年の演奏傾向の変化によるものかも知れません。

新しく録音された『未完成』の演奏を聴いていると、

2つの楽章にちりばめられた美しい旋律の数々には、

死を現実のものとして意識せざるを得なくなったシューベルトの、永遠への憧れに重きをおいて演奏するためでしょうか、

よく言えば繊細、悪く言えばヤワなだけの演奏が多くなり、

従来この曲に抱いていた印象も、変化してきました。

そんな中で、ギュンター・ヴァント指揮するベルリン・フィルの演奏は秀逸なもの、

微妙に揺れ動く感情の中に、宗教的な静謐ささえ漂った、演奏でした。

この人は、曲のテンポを大きく動かすことなく、楽器の音色を変化させることによって、

感情表現、ひいては曲の雰囲気までをも劇的に変えうる、稀有な指揮者だと思います。

この『未完成』も、LP時代から馴染んできた曲の印象を完全に払拭した、素晴らしい演奏だと感じました。

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