そのブームに乗って、氏の既刊本はもとより、
下敷きとなったといわれる、ジョージ・オーウェルの『1984年』は、新たに3万部が増刷され、
小説内で引用されたチェーホフの『サハリン島』も復刊されたそうで、
それぞれに順調に販売数を伸ばしているそうです。
読者のこだわりは、小説中に登場する音楽にも向けられ、
ヤナーチェクの『シンフォニエッタ』、それも小説に登場するセル/クリーヴランド盤に、注文が殺到しているそうです…。
「CMやドラマでなく、小説がきっかけでこれほどクラシックが売れることは、前例がない」とは、担当者の弁!
ところで、『シンフォニエッタ』の第1曲の“ファンファーレ”に関して言えば、若い頃の私には狂気じみた音楽としか映らずに、わずか2分前後で終了するこの曲を聴き通すことすら、苦痛でした!
でも、この『シンフォニエッタ』も、ヤナーチェクの他の曲と同様に、聴いたことのない響きが随所に登場するのですが…
特別に印象に残るものでもないのですが、不思議に懐かしさを感じて、「何だろうな」とは思っていたのです…。
ある時、吉田秀和氏が、ヤナーチェクの音楽を“草いきれの匂いのような…”と評された文章に出遭い、「これだ!」と直感しました。
“草いきれ”とは、『夏の強い日ざしをうけて、草むらから立ちのぼる、むっとする熱気のこと【大辞林】』です。
子供の頃に野原で遊んでいた時に、よく体験したものでした。
単純なもので、何となく気にはかかっていたものの、それほど深刻にも考えていなかった疑問が解消された途端に、
ヤナーチェクの音楽が、素直に聴けるようになったことには、私自身が最も驚いています。
小説に登場するジョージ・セルの演奏は、残念ながら聴いたことがないのでコメントはできませんが、
名演奏として評判の高いマッケラス/ウィーン・フィル盤は、陶然とするような管楽器の音色に聴き惚れながら、自由闊達な自然描写が楽しめる素晴らしいものだと思います。
アバド/ベルリン・フィルの演奏では、曲の持つメルヒェン的な側面を楽しめるように思います。
これを機会に、ヤナーチェクの音楽にも親しんでくだされれば、幸いです!