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ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番『皇帝』

ピアノ:ポリーニ  ベーム/ウィーン・フィル  


先日、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲をエントリーした時に、三大ヴァイオリン協奏曲のことに触れましたが、この曲は、当時チャイコフスキーの第1番、ラフマニノフの第2番と並んで、三大ピアノ協奏曲の一翼を担う作品。

名称の由来は、古今のピアノ協奏曲の中でも、規模・内容ともに堂々とした風格が、まるで皇帝を思わせるという理由で、後世の人によってこの名がつけられたと言われています。

この曲を初めて聴いたのは、E.フィッシャーのピアノ、フルトヴェングラー指揮するフィルハーモニア管の演奏でした。

この曲に限らず、10歳台の後半から30歳台の後半に至るまでの約20年間は、フルトヴェングラーの演奏で感動を体験したベートーヴェン作品では、他の演奏を受け容れることが、全く出来ませんでした。

ベートーヴェンを聴くにあたって、ゲルマン魂を意識したわけではありませんが、大変に説得力の強い彼の演奏を体験してしまうと、他のベートーヴェン演奏全てが、上っ面をなぞるだけの、空虚なものと感じられたのがその理由でした。

この“皇帝”も例外ではなく、長らくこの演奏が、私にとっての唯一の愛聴盤となっていました。

ポリーニがベーム/ウィーン・フィルをバックにした演奏(1978年録音)を初めて聴いた時、冒頭のオーケストラの奏する和音の一撃の後の、高貴で輝かしいピアノの音色に、瞬時に惹き込まれたことを覚えています。

この演奏を聴くまでは、ピアノ協奏曲でありながら、ひたすらオーケストラにばかり注目し、ピアノをその一部としてしか聴かなかった私が、初めて独奏ピアノの演奏に大きな関心を示した瞬間でもありました。

その時以来、発売されたポリーニのディスクは、現代音楽も含めて、全て聴いているはずです。

この曲は、1993年に盟友アバド指揮するベルリン・フィルと共演したライブ録音も発売されていますが、

私は、ますます円熟味を増し、自由闊達に演奏されるように感じる新盤のポリーニよりも、

ベーム/ウィーン・フィルの、堅固で格調高いサポートを得て繰り広げられる、透明で緊張感をはらんだ旧盤の演奏を好みます。

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