ノルウェーの山岳地帯で、羊を追って暮らす山の娘“ヴェズレモイ”が、夢の中で誘惑されたことが現実となって、青年と恋に落ちたが、やがて相手に裏切られるという、どこにでもある話です。
原語が全く分からない私には、詩の内容を味わうことは叶いませんが、
透明な女声で歌われるグリーグの哀愁感に満ちたメロディーを聴くと、有名な抒情小曲集を差し置いても、この人の真骨頂は歌曲にあるのではないかと思えてきます。
8つの詩には、それぞれに大変に美しい旋律が付けられていますが、このディスクでは、とりわけ以下の2曲が素晴らしいと感じました。
第1曲の“それは歌う(誘惑)”
冒頭の、ノルウェーの澄んだ冷涼な大気を思わせるピアノの透明な音色と、妖しげな感情を内包したメゾソプラノによる歌唱との対比は、宮崎駿が描く異次元の世界を髣髴させるような、大変に印象的な音楽。
第8曲の“イェートル川の辺で”
恋に破れて傷心した山の娘が、せめて想い出に安らぎを見出そうと、流れに向かって語リかけるこの歌は、小川の流れを模したような清らかで美しいピアノ伴奏によって、彼女の思いの一途さが一層際立つように感じられる、素晴らしい曲だと思います。
この曲は、ソプラノの声域で歌われた方が曲想に合致するらしいのですが、深みと翳りのある声ながら、感情の表出を極力抑制したオッターの歌唱は、山の娘の健気さを最高に引き出しているように感じました。
オッターと同じスエーデン出身のピアニスト、フォシュベリの繊細で透明な音色によるサポートも、曲の素晴らしさを引き立てるのに、大きな役割を果たしているように思います。