最近聴いたCD

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲『四季』

イ・ムジチ合奏団  アゴスティーニ(vn)


日本のクラシック音楽の歴史で、唯一ミリオンセラーを記録したレコードは、イ・ムジチ合奏団の『四季』。

1959年、フェリックス・アーヨをコンサートマスターとして録音されたこの演奏は、クラシック音楽の売り上げとしては前代未聞の100万枚を超える売り上げを記録しました。

その後、現在の6代目コンサートマスターのシルブに至るまで、同じイ・ムジチでも演奏者が異なる5種類の『四季』が発売された筈ですが、総計の売り上げ枚数は、ゆうに200万枚を超えると言われています。

そんな人気を背景として、イ・ムジチの来日公演プログラムには必ず『四季』が最後に組まれ、アンコールでは日本の曲を演奏することが、お約束事になっているとか…。

とにもかくにも、1960年代から今日に至るまでの40年以上にわたって、多くの人々から親しまれ続けているオーケストラも、珍しいのではないでしょうか。

私が初めて聴いた『四季』も、FMから流れていたイ・ムジチの演奏(フェリックス・アーヨ盤)。40年以上前のことですが、各曲緩徐楽章でのしっとりとした情感に「いい曲だなぁ」と思ったことは、今も覚えています。

でも、その後に買ったレコードは、フランスのパイヤール室内管弦楽団のもの。反骨精神というほどのものではありませんが、イ・ムジチの人気の高さに、ふと天の邪鬼な心がよぎったためです。

しかし、このパイヤール盤からは、イ・ムジチの演奏で刷り込まれたしっとりとした情感が感じられなかったために、繰り返し聴くこともなく、『四季』は私のレパートリーからは、長らく遠ざかっていました。

それは、この曲、特に“春”の第一楽章は、商店街・デパート・喫茶店などのBGMや、電波を通じて、断片的にではあるにせよ、耳にする機会が余りにも多かったせいでもあるのですが…。

今、私の家にあるCDは、同じイ・ムジチでも、コンマスがアゴスティーニのもの。他の演奏を聴いたことがありませんので、相対的な比較ができませんので、あえてこの盤をお薦めはしませんが、自宅のスピーカーの前であらためて聴くと、『四季』という曲の素晴らしさが、はっきりと実感できます。

例えば“春”での鳥の声や、雷鳴や稲妻、犬の声などは、単に情景描写として模倣されているだけではなく、

旋律やハーモニーの一部として、積極的に活用されている点が、当時としては画期的なことだったのではないでしょうか。

全てのヴィヴァルディの作品を聴いたわけではありませんが、私の知る範囲では、『四季』は飛びぬけて独創的な作品と思えますし、そのことが、長年にわたりジャンルを超えて、多くの人に聴かれ続けてきている理由だろうと、考えています。

1989年、ナイジェル・ケネディというヴァイオリニストによリ演奏された『四季』は、、世界中で200万枚を超える売り上げを記録し、クラシックのディスクとしては、世界一とギネスに認定されたそうです。

日本で100万枚以上売れたイ・ムジチ盤(1959年)ともども、有能な批評家が美辞麗句を駆使して褒めそやしたディスク以上の感動を与えてくれることは、まず間違いないものと思います。

私も改めて聴き直してみなくては…。

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