最近聴いたCD

エルガー:演奏会用序曲『南国にて』

ガーディナー指揮  ウィーン・フィル


この曲を初めて聴いたのは、バルビローリ/BBC響(ライヴ)のCDです。

冒頭、いきなり勇壮で誇らしげに奏でられる音楽を聴いて、19世紀初頭には七つの海を制覇した誇り高き大英帝国の艦隊が、前途洋々たる航海に乗り出す姿を思い浮かべてしまいました。

以来、この曲はイギリス第二の国歌といわれる『威風堂々』に匹敵するような、愛国心に溢れ、かつ英雄的なロマンを誇示するような曲だと思い続けていました。

しかし、ガーディナー/ウィーン・フィルの演奏を聴いてからは、印象は一変…。

題名の『南国』とは、地中海に面したイタリアの高級リゾート地Alassio(アラッシオ)のこと。エルガーが、家族と共にイタリア旅行をした時の印象をもとに作曲したと言われています。

バルビローリ盤も前述したように勇壮でかつ美しい演奏だと思うのですが、作曲された経緯を考えると、全曲にわたってリラックスしたのびやかさが感じられるガーディナーの演奏の方が、より曲の本質を衝いているのかと思います。

ガーディナー盤を聴いていると、船旅特有の出港する時の感傷、船に慣れた落ち着いた気分、波濤をけって進む勇ましさ、嵐の海等々の情景が、次から次へと思い浮かぶような演奏です。

しかし、全曲中でとりわけ素晴らしいと感じたのは、嵐が鎮まった後の南欧の夜の海を描いたと思われる緩やかな部分でした。

ウィーン・フィルの弦(特にヴィオラ)や木管の音色の特徴が十二分に生かされた、夢見るような美しい楽曲で、この演奏でのクライマックスと感じました。

音楽史の年表を見ると、17世紀後半から18世紀前半にかけてのパーセルやヘンデルの死後は、イギリスでは著名な作曲家は誕生せず、大作曲家と言われる人々の大部分はヨーロッパ大陸で活躍した人が殆んどを占めています。

イギリス音楽の好きな人は、その中に19世紀後半から20世紀に活躍したエルガー、ディリアス、ヴォーン・ウイリアムズ、ホルスト、ブリテン等を加えるのでしょうが、一般的な音楽ファンにとって馴染みがあるとは言い難い状況…。

私自身も、今挙げた作曲家の作品の中ですぐに口ずさめる曲といえば、エルガーの『愛の挨拶』や『威風堂々第1番』、それにホルストの『惑星』くらいでした…。

リズム・旋律ともに際立ったインパクトが感じられず、全てに中庸を行く地味さゆえに、なかなか親しめなかったのだと思います。   

50歳台の半ばを過ぎる頃から、自分の好み云々を抜きにして、虚心坦懐に音楽に耳を傾けることができるようになってきました。

そんな中でもエルガーの作品は、旋律の親しみ易さ故に、近代以降のイギリス音楽の中では、最も馴染み易いものだと思います。

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