曲中で演奏されているものなのか、それとも戸外での地鳴きなのか、区別がつかないのです。
「曲を知らないから」とか「聴覚がおかしいんじゃないか」と指摘されれば、「その通りです」と答えざるを得ませんが、
そんな一面だけを採っても、私にはマーラーの音楽は自然と一体化していると実感できるのです。
特に交響曲第3番は、当初は楽章毎に付けられていた表題を見ても、自然賛歌をテーマにした作品であり、そのためでしょうか、他の曲よりもしばしばそういう場面に遭遇します。
そういった大らかな自然を感じさせる曲想に加えて、
第1楽章では、初夏の夜明けに感じる爽やかで心地良いまどろみと、遠くから聞こえる軍楽隊のマーチに、幼い頃に聴いた懐かしい響きを…。
第2楽章では、風にそよぐ花たちとの愉しげな会話が…。
第3楽章では、虫たちと戯れる無邪気な姿が…。中間部、夜のしじまに響くポストホルンの音色は、夢の世界へと誘うナイチンゲールの歌のように聞こえます。
この1〜3楽章は、豊かな感受性に恵まれた作曲者の、記憶に残された幼い頃の想い出のように感じられ、聴き手をメルヒェンの世界に誘ってくれる、心地良い音楽だと思います。
第4楽章。歌詞に使われているニーチェの思想については、私には難しすぎて全く分かりませんが、アルトとソロヴァイオリンの掛け合いの美しさからは、優しく諭されているような…。
そして第5楽章の、邪念のない純な心を経て…。
休みなく開始される第6楽章は、ゆっくりと潮が満ちてくるように、静かな感動が心の隅々にまで拡がり、沁み込んでいくような、美しい音楽です。
私はこの曲を聴いて、ある時には充実感溢れる人生への喜びを感じたこともありましたが、しかしある時には愛おしきものを失った悲しみに涙したこともありました…。
この曲は、それぞれの人の、それぞれの喜びや、それぞれの悲しみに、寄り添うように共感を示しつつ、いつしかそれを感動の極致にまで高めていく、類稀な音楽だと思わずにはいられません。
バーンスタイン晩年の演奏で、このような素晴らしい感動を体験することができました。