最近聴いたCD

ヴォーン・ウイリアムズ:交響曲第3番『田園』

B.トムソン指揮 ロンドン交響楽団


『田園』というタイトルから、作曲家の母国イギリスの田園風景や、そこに生活する人々がどのように描かれているのか、そんな興味を持って買ったCDです。

ベートーヴェンの同名の交響曲を意識しながら、聴き始めたように記憶しています。

しかし初めて聴いた時の印象は、第1楽章冒頭から、どんよりと湿った大気に包まれたような田園風景が描かれており、イメージしていた自然に対する喜びや感謝の気持ちといったものが全く感じられません。

起伏にも乏しく、一応最後まで聴いてはみたものの、何とも単調なだけの曲というのが、率直な印象でした。

この曲の良さが感じられるようになったのは、つい最近のことです。

7年前から、田舎住まいをしながら年齢を重ねてきた所為か、じっくりと聴くほどに、微妙に変化する光の陰影や大気のざわめき、それに遠くで囀る鳥の声等が、曲の随所から聞こえてきます。

第1楽章の弦や木管が奏でる淡い旋律は、さながら雲間から漏れる微妙な光の変化を思わせるような陰影に富んだ音楽で、19世紀のイギリスの画家、ジョン・コンスタブルの風景画を観るような、素朴な美しさが感じられます。

第2楽章冒頭のホルン、それに中間部のトランペットソロの懐かしさが感じられる響きは、古城に佇んで古の栄華を回顧するような、そんな趣のある音楽です。

第3楽章は、神への土俗的な信仰を想起するような音楽。時折聞こえてくるイギリス民謡と思われる旋律に、日本の祭囃子を想起して懐かしさを感じるのは、“ヨナ(四七)抜き音階(ド-レ-ミ-ソ-ラ-ド)”が使われているからなのでしょうか(?)。

遠雷を思わせるティンパニーのトレモロで始まる終楽章。ソプラノで歌われるヴォカリーズは、古からの呼びかけのように感じます。

第2楽章でも思ったのですが、古き良き時代の習慣や佇まいが、今も変わることなく連綿と続いている、この『田園交響曲』からは、そんなイギリスという国の風土を感じずにはいられません。

イギリスは北緯50〜60度と高緯度に位置し、日照時間も短い割には、海流の影響で比較的温暖とは言われますが、それでもロンドンの年間平均気温は10℃、季節ごとの寒暖差は少なく、日本のように変化に富んだ四季を迎えることはなさそうです。

でも、こういった曲を聴くことで、イギリスの人々の自然への感慨を僅かながらでも共有できると考えれば、ちょっとばかり嬉しくなってきます…。

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