この曲集の中では、イングリッシュホルンのソロが奏でる悲しげで美しい旋律が印象的な、第2曲“トゥオネラの白鳥”が、際立って有名。
しかし、物語仕立てになった曲集ですので、全4曲を通して聴いてみると、又違った味わいを楽しめると思います。
最近、この曲の演奏で素晴らしいと思ったのは、オーマンディー/フィラデルフィア管がEMIに残した録音でした。
第1曲目の途中から、不吉な予兆を感じさせる緊迫感が、弛緩することなくじわじわと高まっていくのですが、
音量として表現されることのない、心理的に息の長いクレッシェンドがもたらす緊迫感は、特筆すべき素晴らしさだと思います。
この緊迫感は、“トゥオネラの白鳥”にも受け継がれ、第3曲のレミンカイネンが惨殺される場面に至るまで、高まり続けます。
それに反して、第3曲中間部以降、息子レミンカイネンの死を知った母親の、嘆き・悲しみ・献身を表す音楽に、不思議なことに安らぎが漂います。
それは、死によってようやく運命の呪縛から逃れ、母のもとへと戻った魂の安堵感を表しているのでしょうか。この場面、心に沁み入る大変に素晴らしい音楽だと感じました。
全曲にわたり、指揮者オーマンディーの解釈が隅々に至るまで徹底された、渾身の演奏だと思います。
この曲にはもう一つ、C.ディヴィス/ロンドン響による、大変に味わい深い演奏があります。
嘗て、夜の7時からTVで“まんが日本昔ばなし”という番組が放映されていました。
「むかし、あるところに…」で始まる市原悦子さんと常田富士夫さんの語りは、心温まるような味わい深いもの。
そのほのぼのとした雰囲気が好きで、よくチャンネルを合わせたものでした。
ディヴィスの演奏は、ある意味凄惨なこの物語を、このような昔話としてオブラートに包んで語りかけるような、そんな味わいが感じられる秀演です。
素晴らしい演奏を、優劣をつけることなく、比較しながら楽しめるということは、何とも贅沢なことだと思います…。