全て24種類の異なった調性で書かれた小品からなる曲集ですが、曲ごとにショパンの音楽の魅力が凝縮されており、単独で聴いても素晴らしい作品が数多く含まれています。
これらの曲は、アンコールピースとして個々に演奏されることもありますが、最近では、全曲を一つの作品とみなして演奏することが、主流となっているようです。
大ピアニストのコルトー(1887〜1962)は、音楽と文学との融合を図ろうとしたのか、
或いは曲を聴衆に理解してもらうための手段としてなのか、
真偽のほどは分かりませんが、いずれにしても曲の内容を解説するために、24曲それぞれにつけられたコメントは、今も残されています。
1942年にSPとして録音された演奏が私の手元にあります。
音質はさすがに満足できるものではありませんが、コメントを見ながら聴いたこの演奏は、結構楽しめました…。
コルトー以降、SP→LP→CDと時代が変わっても、その時々に応じた数多くの名演奏に恵まれてきた作品でもあります。
つい最近の『レコード藝術』誌を見ると、以前から5年に一度くらいの割合で実施されていた、名曲名盤300選という企画が開始されていました。
ショパンの24の前奏曲は、毎回300曲にノミネートされており、ポリーニ盤とアルゲリッチ盤が抜きんでた人気で1位を争ってきました。
ポリーニの、正確で強靭なタッチで奏される音色の神々しいまでの輝かしさ。
情熱的で奔放な中に、時に信じ難いような気高さが訪れるアルゲリッチの演奏。
どちらも私の愛聴盤ではありますが、最近ではクラウディオ・アラウの演奏に強く惹かれるようになりました。
この演奏でのクライマックスは、第15番(雨だれ)に置かれていると思いますが、アラウはこの曲を、弔いの鐘を打ち鳴らすように、大変に印象的に響かせています。
そのせいか、それぞれの曲に人生の喜怒哀楽が聴き取れるようで、曲全体を壮大な絵巻物のように仕上げているように思えます…。
作曲したショパンの意図は、今や知る術もありませんが、幅広い解釈を許容しうるこの曲は、やはり名曲中の名曲なのでしょうね。
演奏家それぞれの解釈があるのですから、優劣をつけることには、今は全く意味を感じなくなりました。
それよりも、今回新たにどんな演奏がノミネートされるのか、最近の情報にすっかり疎くなった私には、そちらの方に興味があります…。