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ムソルグスキー:組曲『展覧会の絵』(ピアノ版)

ピアノ:ポゴレリチorリヒテル


この作品はムソルグスキーが、早世した友人の画家ハルトマンの遺作展で観た10枚の絵の印象を基に作曲したと言われています。

ご承知のように、原曲はピアノ独奏用のもので、長年日の目を見ませんでしたが、完成してからほぼ50年が経過した1922年に、ラヴェルの編曲によって一躍脚光を浴び、今では大変に人気の高い超有名曲として知られています。

クラシックの世界では、迫力や音色の多彩さゆえに、どうしてもオーケストラ曲に人気が集中しがちです。

しかし10年ほど前、ポゴレリッチが演奏するピアノ版を聴いた時、目から鱗が落ちる思いでした。

演奏時間が42分を超えるということは、オーケストラ演奏でのチェリビダッケ/ミュンヘン・フィルに匹敵するような、極端に遅いテンポです。

しかし彼の演奏は、音色を使い分けて細部を克明に描く鮮やかさ、そして圧倒的な迫力によって、最後まで集中が途切れることはありませんでした。

ピアノ一台の演奏が、時にオーケストラ演奏を凌駕することも可能である、そんな印象が強く残りました。


ところが先日、リヒテルが1958年にソフィアで演奏した伝説のライヴ盤を初めて聴いて、その泥臭いと思えるほどの解釈に驚きました。

例えば、変奏されながら繰り返し登場するプロムナード。

観客が次に展示された絵へと歩む様子を表していると言われていますが、管弦楽版、ピアノ版を問わず、どの演奏も静粛にしずしずと歩む様子を描写していると感じていました。

しかしリヒテルの演奏では、場面ごとの表情の違いが、あからさまと思えるほどに表現されています。

冒頭のプロムナードでは、期待に胸躍らせて嬉々として会場に入る姿が…。

第4曲の“ビドロ(牛車)”は、原画は圧政に苦しむポーランドの貧農民を描いたものと言われます。

確かにリヒテルの演奏からは、鎖に繋がれ鞭打たれながら歩む姿が髣髴されますが…

その印象が後を引いたプロムナードでは、憔悴感がやがて怒りへと膨れ上がるような感情の起伏が…。

第6曲の“サムエル・ゴールデンベルグとシュムイレ”は、傲慢な大金持ちと、米つきバッタのような人物を描いた作品と言われていますが、これに続くプロムナードは、苦々しげな印象が表現されていると感じられます。


ポゴレリッチの演奏が、ラヴェルの管弦楽版を強く意識させる演奏である一方、リヒテル盤は、ムソルグスキーの原典版を尊重した演奏と申し上げられるのでしょう。

どちらにしても、両盤ともに主張が明確に示された、きわめて個性的な名演奏と申し上げて差し支えないと思います。

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