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コープランド:バレー音楽『アパラチアの春』

ドラティ指揮  デトロイト響


この曲の開始部を初めて聴いた時は、昔映画館のワイドスクリーン(シネラマ)で観たことのある、地平線の彼方まで見渡せるアメリカ西部の広大な草原の夜明けを思い出しました。

映画・テレビに関わらず、西部劇が好きでなかったはずの私ですが、なぜかこの情景だけは頭の片隅に残っていたようです。

バレーの筋書きは、アパラチア山脈の麓に居を構えた農家の新婚夫婦を励ますために、近隣の人たちが集まって二人の門出を祝う、という他愛のないもの。

澄明な大気を髣髴させる冒頭部や、随所に登場するアメリカ民謡やゴスペルと思しき旋律を聴くと、学生時代のキャンプの想い出が蘇ってきます。

若い頃の私がイメージしたアメリカ音楽とは、ジャズやブルースではなく、フォスターに代表されるアメリカ民謡と、二グロやアメリカインディアンの影響を受けたと言われる『新世界交響曲』をはじめとするドヴォルザークの幾つかの作品でした。

学生時代に野外活動センターのボランティアスタッフとして、青少年のキャンプのお世話をしたことがあります。

毎夜のように行われたキャンプファイヤー(戦後GHQの指導により、学校教育に取り入れられた)では、当時流行っていた日本のフォークソングに負けないほど、フォスターに代表されるアメリカ民謡やゴスペルが歌われたものでした。

燃え上がる火を囲んで、友情、過ぎ去った過去への郷愁、そして未来への夢を語り、共に歌うことで、非日常的で開放的な場の雰囲気が一層盛り上がったものでした。

殆んどの人とは一期一会の出会いに終わりましたが、そんな場を共有できたことは、楽しい思い出でもあり、人生の糧ともなっています。

この曲で最も興味を惹かれたのは、第2曲…。allegroのどたばたと慌ただしげな主旋律と併行して、弦のユニゾンによる厳かなコラール風の対旋律がゆっくりと流れますが、これは同国の先輩作曲家、C.アイヴスの影響なのでしょうか…。

性格が好対照な主旋律と対旋律、即ち人々を迎える慌ただしさと厳かさとが併行して進行することによって生ずるアンバランスさが、逆に場の和やかな微笑ましさを表現していると感じました。

第7曲の主題は、ゴスペルから引用されているそうですが、労働歌のように感じられる素朴で親しみ易い旋律です…。

曲全体を通して、長閑で大らかな人々の生活が感じられますが、それは私が記憶している昭和の20〜30年代には、日本のどこにでも見かけることができた庶民の生活とも共通したもの。

それ故に、余計に懐かしさが感じられるのだと思います。

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