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リスト:巡礼の年第2年『イタリア』

ピアノ  A.ブレンデル


巡礼の年第2年は、リストが妻や子供らとイタリアを旅行した際に、この国の文学・絵画等から霊感を得て作曲したピアノ曲を、後年になって曲集としてまとめたものと言われています。

華やかな超絶技巧を駆使したハンガリアン舞曲や各種練習曲とは一線を画した、どちらかというと滋味深い印象が強い作品集です。

私にとってのこの系統のリスト作品は、時にドン・キホーテのように誇大妄想的で独りよがりな生き方を思い浮かべつつも、聴いているうちにそのロマンに惹き込まれる、魅力のある作品です。

第1曲“婚礼”はラファエロの絵画、

第2曲“物思いに沈む人”はミケランジェロの彫刻、

第3曲“サルヴァトーレ・ローザのカンツォネッタ”はローザの詩、

第4~6曲はペトラルカによる3篇のソネット(叙情恋愛詩)、

そして第7曲“ダンテを読んで”は『神曲(地獄編)』を素材としているそうです。

曲を理解するために、素材となった作品を知る必要はないと思います…。

音楽を他の芸術で完全に表現し尽くせないように、詩や絵画・彫刻に込められたメッセージ全てを、音楽で表現することは出来ないと思います。

しかし、リストがこれらの作品から得たのであろうインスピレーションや感動は、この曲集からは充分に伝わってきます。

巡礼の年第2年、私はブレンデルの演奏を愛聴しています。

曲の細部に至るまで明晰に、かつ美しく表現されたこの演奏は、リストの多くの曲に聴ける深みを過不足なく表現していて、尚かつインスピレーションに溢れたものです。

曲を完全に掌握しているからこそ、随所にこのような生きた解釈が可能になるのだと考えています…。

清らかな憧れが印象的な第1曲、

それぞれにプラトニックな愛が描かれた3曲のペトラルカのソネット、

地獄を逍遙する中に現われる、聖女ベアトリーチェを髣髴させる高貴な調べが大変に印象的な第7曲。

聴衆のいないスタジオ録音ながら、先ほども触れたように、時折ライヴ同様の即興と思しき感動の高まりが感じられます。 ブレンデルを評して、「知的で正統的だが、面白みに欠ける」と評する人もいます。

例えばベートーヴェンの有名なソナタの中には、明晰過ぎるが故に、逆に物足りなさを感じる演奏が存在することも事実です。

しかし、彼の演奏によってその素晴らしさを認識した曲は、ベートーヴェンを始め、シューベルト、シューマン、それにリストの作品中にも数多く存在します。

この曲集もそんな1枚であり、今も愛聴しているディスクです。

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