最近聴いたCD

ベートーヴェン:交響曲第6番『田園』

フルトヴェングラー指揮  ウィーン・フィル


私が生まれて初めて買ったのが、ワルター/コロンビア響によるこの曲でした!

音楽とは全く無縁だった我が家に、一体型のステレオ装置が運び込まれました。
私が中学生になったのを機会に、甥たちの情操教育にと、叔母からプレゼントされたものです。

しかし我が家には、一枚もレコードがありませんでした。
ですから、数ヶ月間はもっぱら音の良いラジオとして、火鉢と折畳み式の卓袱台が置かれた部屋(居間兼食堂)で使われていました。

でも、さすがに叔母に申し訳ないと思ったのか、父から「好きなレコードを捜してこい。一枚買うたるから!」と言われ、迷った末に選んだのが、音楽の授業で聴いたことのあるこの曲でした。

当時は、クラシックが好きだったわけではありません。

ただ、クラシックを聴く人や、ピアノやヴァイオリンを習っている人に、憧れていただけでした。それがクラシックを聴こうと思った動機です。

買ったのは良かったのですが、何しろこのレコードしかないものですから、ある時にはスピーカーと対峙しながら、またある時には勉強のBGMとして、毎日のように聴いていました。

多分200回近くは聴いたと思います。そのために盤面がレコード針で削られて、白い粉がふいていました。

来る日も来る日も同じレコードを聴いた結果、いつしか他の演奏家による『田園』に違和感を覚えるようになって、このレコード以外の演奏を一切受け付けなくなってしまいました。

マインドコントロールされたような状態だったのでしょうね。

実を言うと、このワルターの演奏には、それほど感動した記憶はないのです。

それでも飽きもせずに聴き続けられたのは、当時の私が曲に要求していた重厚さには乏しいものの、滋味深さが心の琴線に触れていたためだろうと推察しています。

マインドコントロールされた私の心を解きほぐしてくれたのが、フルトヴェングラー/ウィーン・フィルのスタジオ録音でした。

某評論家によって、「おどろおどろしい」と酷評された演奏でした…。

確かに聴きようによっては、冒頭から爽やかさとは一線を画した演奏かも知れませんが、遅めのテンポでじっくりと曲が進むうちに、茫洋とした自然の懐に抱かれたような、しみじみとした感慨に包まれてきます。

第2楽章、フルトヴェングラー特有の、曲の流れに沿った自然なテンポの揺れが、恰も頬を撫ぜる風のように感じられて、小川の辺に佇んでいるような心地好さ…。

第4〜5楽章への移行部分、嵐が終わった後の、神々しいまでに感動的なホルンの響き等々!

繰り返し聴いたワルター盤での印象を完全に払拭してくれました。

今も初々しい感動を与えてくれる、私の愛聴盤となっています。

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