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グリーグ:劇付随音楽『ペール・ギュント』

ブロムシュテット指揮  サンフランシスコ交響楽団


イプセンの詩劇『ペール・ギュント』のために書かれた全26曲から成るこの曲集。

その中から各4曲が抜粋された第1、2組曲の方が良く知られていて、発売されているディスク数も多く、嘗てはこちらの方を愛聴していました。

ところが楽曲中に含まれる台詞や歌までを収録した全曲(或いはそれに準ずる)盤を知ってからは、組曲版を聴くことは、殆んどなくなりました。

劇の流れに沿って聴くと、組曲からは聴き取れなかった味わいが感じられるからです。

例えば、第1組曲最初に置かれている、“朝(の気分)”と題された有名な前奏曲。
気持のよい爽やかな音楽で、それだけで満足していました。

ところが全曲盤では、第3幕“オーゼの死”に続く、第4幕の“前奏曲”という流れで演奏されます。

最愛の母(オーゼ)を亡くし、悲しみに打ちひしがれたペール。

しかし爽やかな朝の訪れが、そんなペールの心を癒して、新たな冒険心を燃え上がらせる。

劇に沿った流れの中で聴くと、そんな役割を担った、大変に重要な曲と感じられます。

第2組曲の最後におかれた“ソルベーグの歌”。
ペールと再び一緒に暮らせる日々が来ることを信じて、ひたすら帰りを待ちわびるソルベーグの心境を切々と歌ったこの曲は、

全曲盤では、アニトラに誘惑されてふざけあうペールの様子が描かれた第18曲に続いて歌われるために、
放蕩さと貞淑さが対比され、ソルベーグの健気さが一層際立って、より切々と心に響く音楽と感じます。

“朝(の気分)”“ソルベーグの歌”共に、単独で聴いても、極め付きの名曲であることに異論はありません。

戯曲の筋書きなど無用との意見もあるでしょう。

でも、もし未だ組曲でしか聴かれていないのなら、機会があれば全曲(或いは抜粋)盤も一聴されることをお勧めします。

私はブロムシュテット/サンフランシスコ管のディスク(20曲が台詞、歌入りで収録されています)を愛聴していますが、ヤルヴィ/エーテボリ響(完全全曲盤)も評価が高いようです。

余談ですが、ある出来事をきっかけに一人の人間として目覚め、幸せな結婚生活を捨ててまで自立を決意した女性を描いた『人形の家』の作家イプセンが、『ペール・ギュント』では、約束を信じ、年老いてもただひたすら男性の帰りを待ち続ける女性を描いているのですね!

 

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