気高くって柔らかく、洗練されているけれど、実体のないものへの憧れを感じさせるようで…。
しかしそんな音楽に、時に極めて人間的な感情の吐露を感じることもあるのです。
フォーレのピアノ四重奏曲の第2番。
弦楽器の表情が繊細に感じられるのは、聴き慣れた弦楽四重奏と比べ、ヴァイオリンが一つ欠ける分、響きが薄くなる所為でしょうか。
普段弦楽三重奏の響きには、地味で物足りなさを感じる私ですが(但し、モーツァルトのK.563は別格)…。
ところがピアノが加わると、華やかさと繊細さがマッチングして耳障りが心地よく、むしろ弦楽四重奏+ピアノによる五重奏よりも、好ましい響きと感じられます…。
標題の曲も、第1楽章冒頭から幻想的な世界へと惹き込まれていきます。
アルペッジョが多用されるピアノと、美しい旋律を奏でる弦、中でもチェロの音色の美しいこと!
刻々と移ろいゆく黄昏時の光の変化を想い起すような儚さを感じ、陶然と聴きほれてしまいます。
第2楽章は、期待と不安が入り混じったような、落ち着かない心の動きを表現したような音楽。
そして第3楽章の、不安げなピアノの伴奏に先導されて、弦楽器入れ替わりながら甘美で幸福な旋律を奏でていく部分。
愛しく思う人に心情を告白して、全てがバラ色に輝いた直後に、自分とは関係のない世界で愉しげに振る舞う彼女の姿を目にして、謂れのない嫉妬心を抱く、そんな心の移ろいが感じられる音楽です。
演奏はユボー(p)・モンブラン(vn)・ルキアン(va)・ナヴァラ(vc)によるもの。
ユボーとナヴァラ以外は名前すら知らなかった演奏家でしたが、前述した感慨は、他のディスクからはなかなか聴き取れないもの。
私にフォーレの室内楽の素晴らしさを紹介してくれた、とびっきりの名演奏だと思っています。