最近聴いたCD

ラヴェル:高貴で感傷的なワルツ

ピアノ アンジェラ・ヒューイット 


 長い間、フランス印象派の音楽を聴き通すことが出来ませんでした。

明確に提示された主題が発展・展開するドイツ音楽を中心に聴き始めた私にとっては、フランス音楽の特徴とされる自由な形式やフレージングや、多様かつ精緻な響き等には、なかなか馴染めなかった所為でしょう。

そもそも生まれ育った家庭や学校、会社の職場が、“軽妙洒脱”“粋”といった感性が芽生え、育まれる環境とは、大よそ縁遠かった所為もあると思います。

それに、物心ついた小学生時代から大学に至るまでを体育会系一本で過ごしてきた私自身が、元来そういった雰囲気を苦手としていましたし…。

ただフランス音楽の中でも、雄渾壮大さを備えた曲は好きでした。

同じ作曲家の『ダフニスとクローエ』の第3幕“夜明け”や“全員の踊り”などは愛聴曲の一つで、特に第2組曲は、様々な演奏で楽しんだものです。

しかしこの曲は、ラヴェルの作品中でも、私の感性からは最も縁遠く、いま一つしっくりきませんでした。

でも、先日アンジェラ・ヒューイットが弾く全8曲を聴きながら、曲ごとに眼前に現れる貴婦人達の様々な立ち居振る舞いに見惚れて、思わずため息をついていました。

6曲から構成されるこの曲に、ラヴェルがどんなメッセージを込めたのか、そんな知識は持ち合わせておりません。

ただ、難しいことは抜きにして、還暦を迎えてこういった類の音楽が楽しめるようになったという、そんな事実を嬉しく思った次第です。

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