そもそもこちらに来るまでは、植物に興味を示したことなどなく、名前も殆んど知りません。
若い頃から、庭の手入れはいつも妻に任せっきりでした。
しかし環境の変化というものは恐ろしいものです。
そんな私が、軽井沢に住み始めてからの僅かな期間で、路傍に咲く名も知らない花を可憐だと思うようになりました。
そのためなのかどうか、音楽の聴き方も変わってきました。
主題に添えられた装飾音や、これまでおおよそ意識したこともなかった何気ないパッセージに、自然の息吹が感じられるようになってきました。
特に、これまでほとんど関心を寄せていなかったドヴォルザークの交響曲や弦楽四重奏曲にそれを感じるようになりました。
彼の代表作とされる有名な第9番『新世界』や第8番は、弦楽四重奏曲の『アメリカ』等は、発売されているディスク数も多く、コンサートでも度々演奏される人気曲。
しかしその他に関しては、旋律が地味でインパクトに欠ける所為か、発売ディスク数も少なく、コンサートで取り上げられることも殆んどありません。
私も、耳触りは良いとは思っていましたが、集中して全曲を聴き通した記憶は殆んどありません。
そんな中では、演奏時間30分強の第3番だけは、第1楽章の冒頭の悠々と流れる大河を髣髴させるような雄大で懐かしさを感じる主題が好きで、時々聴いてはいました。
ところが、途中からは曲の脈絡が希薄に感じられて、最後まで聴き通したことは殆んどありません。
しかし、最近では随所で鳥の囀りや梢の揺れを感じて、それに聴き入って、結局最後まで楽しめるようになりました。
夜の静寂の中、月明かりに照らされた古城に佇み、いにしえの栄華を偲ぶような第2楽章では、スメタナの『わが祖国』の“高い城”と印象がだぶってきます。
快活で愉しい踊りが繰り広げられる第3楽章は、“モルダウ”の中間部を…。
今はこの曲を、ドヴォルザーク版『我が祖国』と思って、愛聴しています…。
最近良く聴くのは、録音が比較的新しいチョン・ミュンフン/ウィーン・フィルのディスク。
音の良さは申すまでもなく、豊かなスケール感と繊細な表情を併せ持った、郷愁漂う素晴らしい演奏だと思います。